個人情報からの匿名加工情報の作成

個人情報保護法によれば、個人情報を利用する際には、次のように利用目的を具体的に特定した上で、それを公表したり本人へ通知(場合によっては同意取得も)しなければならない。 (利用目的の特定) 第十七条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。 (利用目的による制限) 第十八条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。 (取得に際しての利用目的の通知等) 第二十一条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。 (第三者提供の制限) 第二十七条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。 しかし、個人情報を「匿名加工情報」に加工すれば、上記義務を課されることはなく、利用の自由度が上がるというメリットが得られる。 匿名加工情報とは? これは日本の個人情報保護法で定められている概念で、2017年の法改正で導入されたものである。 個人情報保護法の第2条6項では、次のように定義されている。 この法律において「匿名加工情報」とは···特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう。 つまり、「匿名加工情報」とは、以下の2つの要件を満たすものをいう。 特定の個人を識別できないこと 元の個人情報を復元できないこと なお、似たような概念として「仮名加工情報」もあるが、こちらは要件1のみ満たすもの、つまり本人を直接識別できないように加工したが、他の情報と照合すれば識別できる可能性のある情報をいう(個人情報保護法第2条5項)。 利用上の特徴 匿名加工情報であれば、本人の同意なく、第三者に提供できる。 ただし、後述のように個人に関する情報の項目を公表する義務等には対応する必要がある。 例えば、以下の利用ケースが考えられる。 顧客データベースから「氏名」「住所」を削除し、「年齢」「購買履歴」「性別」などだけを統計的に残す。 医療データを「患者ID」「氏名」を削除し、年齢層や症状、治療経過などだけを研究用に提供する。 画像や動画を匿名加工情報にするには? 画像中に氏名、生年月日などといった個人情報が含まれていれば、当然それらは個人が特定できない程度に削除する必要がある。 これに加え、特定の個人を識別できなくなるよう、個人情報の一種である「個人識別符号」の全部を削除することが求められる。 個人識別符号について 個人情報保護法では、「個人識別符号」は、以下のように定義される。 (個人識別符号) 第一条 個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)第二条第二項の政令で定める文字、番号、記号その他の符号は、次に掲げるものとする。 一 次に掲げる身体の特徴のいずれかを電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、特定の個人を識別するに足りるものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合するもの イ 細胞から採取されたデオキシリボ核酸(別名DNA)を構成する塩基の配列 ロ 顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状によって定まる容貌 ハ 虹彩の表面の起伏により形成される線状の模様 ニ 発声の際の声帯の振動、声門の開閉並びに声道の形状及びその変化 ホ 歩行の際の姿勢及び両腕の動作、歩幅その他の歩行の態様 ヘ 手のひら又は手の甲若しくは指の皮下の静脈の分岐及び端点によって定まるその静脈の形状 ト 指紋又は掌紋 ここで、たとえ画像中の人の顔にマスキング処理を施しても、上記の情報が残ることで特定の個人が識別できてしまうと、匿名加工情報にはならない点は要注意である。 静止画像であれば顔をマスキングすれば問題ないことが多いのだが、動画となると、(リスクは顔よりかなり下がるものの)声や歩行の姿勢等で特定の個人が識別できてしまう可能性がある。 よって、顔のマスキングも含め、以下のような処理を施すことが考えられる。 画像の加工 顔や指紋の除去・加工 歩き方など特徴的な部分も必要に応じてぼかす 音声の削除・加工 または、画像データを以下のような別データに変換するというやり方もある。 属性情報(性別、年代等、個人情報を特定できないものに留める) キャプション(個人名等を含まない説明文) 統計データ ここで、顔等の個人識別符号を特徴量として数値化した場合、それによって個人が特定できるのであれば、依然として個人識別符号に該当してしまう点には注意したい。 つまり、「顔にマスキングして復元できない状態にする」だけで基本的には匿名化の方向には進むものの、他の構成要素も考慮、必要に応じて追加加工を施すことが望ましい。 匿名加工情報を作成する事業者の義務 匿名加工情報を取り扱う場合であっても、いくつかの義務は生じる。 詳細は個人情報保護法の第43条〜第46条に集約されているが、以下にその概要を載せておきたい。 公表の義務 以下は、個人情報保護委員会のHPからの抜粋となる。 ...

October 9, 2025 · 1 min

知財契約における任意規定と強行規定

契約を行う上で、民法には「任意規定」と「強行規定」という規定が存在することを留意しておく必要がある。 「任意規定」とは、当事者の合意で排除できる規定であり、契約で別の内容を定めれば、その合意が優先される一方、もし契約で何も決めていなければ、適用される規定である。 民法でも、次のように規定されている。 (任意規定と異なる意思表示) 第九十一条 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。 一方、「強行規定」とは、当事者の合意で排除できない規定を指し、公序良俗や弱者保護など、社会的に重要な価値を守るために必ず適用される。 したがって、契約において、当事者間で強行規定に反する内容に合意したとしてもその部分は無効となる。 例えば、民法では第5条(未成年者の法律行為)等が強行規定である。 では、契約時の知財の取扱いに関して、強行規定となる条文は存在するのだろうか? 民法における「知財」に関する直接規定 結論からいうと、民法には知的財産権の帰属や利用許諾に関する直接の規定は存在しない。 民法は物権・債権の一般原則を定めるもので、知財の詳細は 特別法(著作権法、特許法、商標法、不正競争防止法など) に委ねられている。 民法上の関係する規定 直接ではないものの、次のような一般規定が知財契約にも作用する。 契約自由の原則(民法521条) 当事者は契約内容を自由に決められる。 知財の帰属・利用許諾についても、特別法の強行規定に反しない限り、自由に定められる。 請負契約(民法632条以下)・委任契約(民法643条以下) 開発委託契約は請負や準委任の性質を持つ。 ただし、請負の目的は「成果物の完成」であって「知財の帰属」まで規定していない。 不法行為・契約責任(民法709条、415条) 知財を契約外で利用した場合、不法行為責任・債務不履行責任が問われる。 これも一般原則であり、知財特有の規律ではない。 強行規定があるのは「特別法」 知財分野で強行規定といえるのは特別法にあるものの、その数は少ない。 例えば、以下のものは民法の契約自由の原則に対する「特別法による制約」といえる。 著作権法59条:「著作者人格権は譲渡できない」→ 強行規定 特許法35条:「職務発明に関する取扱い」→ 強行規定と考える判例が多い しかし、特許法35条等、強行規定/任意規定のいずれと考えるべきか、未だ論争のあるものが多いのが実情である。 まとめ 民法には知財の帰属や許諾についての直接規定はなく、契約自由の原則に基づき「任意規定」として処理される。 著作権法・特許法など特別法の一部には強行規定がある(著作者人格権は譲渡不可、など)。 実務上は、民法の任意規定に頼らず、契約で明示的に知財の帰属・許諾範囲等を定める必要がある。

結合商標の分離観察の可否

自社で新しい製品を販売するとき、製品名について他社商標のクリアランスを行う上で、次のような場合に結合商標の類否判断に迷うことがある。 自社製品名「○○ △△」(結合商標)に対し、他社商標「○○」が見つかるパターン 自社製品名「○○」に対し、他社商標「○○ △△」(結合商標)が見つかるパターン このような場合は、結合商標における分離観察の可否等を判断することとなる。 商標出願人は、商標の構成全体から他人の商標と識別するように商標を考案しているため、商標は全体として観察されるべきものである。 しかしながら、複数の要素からなる結合商標に関しては、一部の要素から生ずる呼び名や概念が識別標識として働く場合があるため、商標法の判例では商標の分離観察を認めている。 ここで実務での参考とすべく、結合商標の類否判断の方法が示された判例を紹介したい。 結合商標の分離観察に関して 以下の判例で結合商標の分離観察の可否及び要部認定の判断基準が言及されており、そこでは3つの類型が提示されている。 判例 つつみのおひなっこや事件(最判、平成19年(行ヒ)第223号、平成20年9月8日) VENTURE事件(知財高判、令和5年(行ケ)第10063号、令和5年11月30日) 分離観察が認められる類型 結合商標が次のいずれかの類型に当てはまる場合は、分離観察も可とされている。 しかし、分離観察の可否の判例は統一された状況とはいえず、あくまで分離観察の可否を検討する上での一助という位置づけとなるかもしれない。 類型1:その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合 類型2:それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合 類型3:商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合(分離された各構成部分の全てが当然に抽出して類否判断を行うことが許される要部となるものではない) つつみのおひなっこや事件 以下の本件商標(結合商標)が、引用各商標と類似するか否かが争われた事件である。 項目 出願・登録番号 商標 本件商標 第4798358号 引用商標1 第2354191号 引用商標1 第2365147号 類型1:非該当 本件商標の構成中には、称呼については引用各商標と同じである「つつみ」という文字部分が含まれているが、本件商標は、「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。 本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分から地名、人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても、本件審決当時、それを超えて、上記「つつみ」の文字部分が、本件指定商品の取引者や需要者に対し引用各商標の商標権者である被上告人が本件指定商品の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできず、他にこのようにいえるだけの原審認定事実は存しない。 類型2:非該当 本件商標の構成中の「おひなっこや」の文字部分については、これに接した全国の本件指定商品の取引者、需要者は、ひな人形ないしそれに関係する物品の製造、販売等を営む者を表す言葉と受け取るとしても、「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉ではないから、新たに造られた言葉として理解するのが通常であると考えられる。そうすると、上記部分は、土人形等に密接に関連する一般的、普遍的な文字であるとはいえず、自他商品を識別する機能がないということはできない。 VENTURE事件 以下の本件商標と引用商標(結合標章)の類否判断において、分離観察が許される第3の類型を示した事件である。 項目 出願・登録番号 商標 本件商標 商願2020-128329 引用商標 第6434159号 類型3:該当(一部要素は類否判断の対象外) 引用商標の各構成部分を比較すると、文字の大きさの違いからくる「遊」の文字部分の圧倒的な存在感 、書体の違いからくる訴求力の差、全体構成における配置から自ずと導かれる主従関係性、称呼及び観念において一連一体の文字商標と理解すべき根拠も見出せない等の事情を総合すると、引用商標に接した取引者、需要者は、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分を分離して理解し、中心的な構成要素として強い存在感と訴求力を発揮する「遊」の文字部分を略称等として認識し、これを独立した出所識別標識として理解することもあり得る。 「VENTURE」の文字部分は、商標全体の構成の中で明らかに存在感が希薄であり、従たる構成部分という印象を拭えず、取引者、需要者がこれに着目し、引用商標の略称等として認識するということは、常識的に考え難く、引用商標の要部と認定することはできない。

大学とのNDA(秘密保持契約)における考慮事項

大学と共同研究を行う前段階として、まずはNDA(秘密保持契約)を結ぶことが多いかと思う。 しかし、大学とのNDAでは、企業間と比べて独特の注意点がある(その他の契約にも言えるが)。 特に大学側は「学内規則」「教育・研究の自由」といった制約があるため、以下の観点を押さえることが重要となる。 締結主体(大学単位・研究室単位・個人単位) 契約主体は、大学となることもあれば、研究室や教授個人となることもある。 大学単位での締結が基本 NDAは大学との間で締結することが望ましい。 企業から見れば、その方が研究室を超えた広範な関係者に秘密保持の義務を負わせることができるからである。 実務上は大学側が準備したひな型で締結することを求められる場合が多く、それほどカスタマイズする余地は無かったりする。 一方、大学側では管理ニーズもない上、管理工数もないため責任を負うのが難しいことを理由に、教授個人や研究室と締結することを学内規則とする大学もある。 この場合は仕方ないので、研究室単位・個人単位での契約を検討することとなる。 研究室単位・個人単位での契約 研究室や教授とNDAを締結する場合は、特定の研究やプロジェクトに焦点を当てた契約へとカスタマイズしやすくなる傾向がある。 ただ、実務的には教授が窓口となっても、契約書の署名者は大学の事務局となっており、結局交渉の余地が大きくないこともある。 大学とNDAを結ぶ際の留意点 大学は、研究の成果を学会や論文で発表することが重要な使命の1つであり、また目的によっては学生に秘密情報を開示する可能性もある。 こういった大学特有の事情を理解した上で契約内容を検討しておく必要がある。 秘密情報の開示ニーズが強め 大学は研究成果を公表する義務や慣習があるため、「学術論文としての公表制限」に慎重となる。 特に、秘密保持期間が長期間に及ぶことには難色を示されることが多い。 このため、必要に応じて例外を設けることも視野に入れつつも、開示前の事前通知・承認取得を要求する条項を設けるなどの予防措置も併せて考えておきたい。 大学によってはWeb上でひな型を開示していることもあるので、デフォルトでどの程度の期間を設定しているのか参考にすると良い。 学生・院生への開示 大学では学生が研究活動に関与することが多いため、NDAの対象者に学生も含める必要があるかを考えておくことが重要となる。 基本的には、一般的なNDAでよくある、お互いの役員や従業員に秘密保持義務を課すのと同じ考え方となる。 ここめ注意したいのは、学生は大学の従業員ではないため、企業の従業員のように守秘義務を自動的に負わない点である。 よって、大学のNDAに「大学の職員・学生等に必要な範囲で開示できる」「開示したものに対し、自らと同等の義務を負わせる」点を明記するだけでなく、大学から学生に対して個別の秘密保持誓約書を取る、という二段階の方式が推奨される。 そうは言っても、学生に開示するというのはそれなりのリスクを負うこととなる。 このため、開示先の学生はできるだけ少人数に留めるとともに、開示する情報も最小限にすることが望ましい(NDAの基本的な考え方ではあるが)。 なお、学生は卒業することも踏まえ、大学という組織から離脱した場合も引き続き秘密保持義務を遵守させるよう誓約させる点も押さえておきたい。 実務上のポイント 大学とNDAを結ぶのが望ましいが、研究室単位、個人単位での締結とならざるを得ないケースも 大学側のNDAひな型に合わせることが多い(企業側から提示すると交渉に時間がかかる) 秘密情報の「定義」や「有効期間」は過剰に広く・長くしない(大学側が応じにくい) 「学生等への開示」について守秘義務を担保する条項を盛り込むとともに、大学側で誓約書を取らせること それでも、開示する学生たち、開示する情報は絞り込んでおくこと

September 27, 2025 · 1 min

NDAはプロジェクト毎に結ばないといけない?

NDA(Non-Disclosure Agreement, 秘密保持契約書)とは、新規の取引の検討や実際に取引を行うにあたり、相手方に自社の秘密情報を提供する場合に結ぶ契約で、相手に秘密情報を漏らさない義務を課すものである。 相手方と契約交渉をしている事実や、契約条件(開発内容、ライセンス条件、料金表など)は、企業秘密として保護するべきことが多い。 ところが、開発側では既に交渉を始めており、後から「交渉の結果契約が結べそうなので、NDAを結びたいのですが・・・」と相談を受けてしまうこともある。 実務上は、具体的な契約交渉をする前に、きちんとNDAを取り交わすよう意識づけを行うことが重要となる。 ここで、プロジェクト毎に相手方とNDAを結ぶのは大変なので、包括的NDAを結びたいと思う人もいるかもしれない。 例えば、過去に締結したNDAをそのまま使えれば、新たな締結は必要ないと考えるだろう。 まずはNDAの基本構造に触れつつ、包括的NDAと個別NDAのメリット・デメリットを整理したうえでおススメを紹介したい。 NDAの基本構造 主な条項の基本構造は以下の通りである。 条項 内容 目的 何のために秘密情報を開示するか(共同開発、業務委託、事業提携の検討など)。 秘密情報の定義 あまりに包括的な定義付けは紛争の火種となりかねないので、書面に「Confidential」等と明記したもの、口頭の場合は一定日数内に書面で確認するなど、何を秘密情報とみなすかを明確にする。更に、以下のような例外も設ける。 (1)開示を受けたときに既に保有していた情報 (2)開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報 (3)開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報 (4)開示を受けたときに既に公知であった情報 (5)開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報 秘密情報等の取扱い 秘密を適切に保管・管理する方法のほか、目的外使用の禁止、相手方の事前承諾なしによる第三者提供の禁止等を記載する。 返却・廃棄義務 契約終了時や目的達成時に、秘密情報を返却・廃棄する義務。 有効期間・秘密保持期間 契約自体の有効期間、秘密保持義務の存続期間。契約締結等に要する期間をもとに設定するのが良い。秘密保持契約終了後も、一定期間は秘密保持義務を負わせるということも可能。 その他一般条項 反社会的勢力の排除、損害賠償、裁判管轄など。 契約を締結する目的や、秘密情報の定義・範囲が明確であるかを確認するとともに、お互いの目的が達成できるかを個別に確認することとなる。 開示側であれば、「保護すべき秘密情報が対象としてすべて含まれているか」「相手方に対し、秘密情報を保護するために必要な義務を課しているか」という点、受領側であれば「契約締結の目的を達成するために必要な情報をすべて受領できるか」「秘密情報の管理体制が、自社にとって構築・運用可能なレベルになっているか」という点が確認のポイントになるかと思う。 包括的NDAの特徴 メリット 一番のメリットは、契約締結が一度で済むところである。 プロジェクトごとにNDAを作らなくても、一定期間の秘密情報授受を一括管理でき、企業間で複数プロジェクトが並行していても、基本ルールが一本化される。 また、案件がまだ具体化していない段階でも、早く情報を共有しやすいという利点もある。 デメリット ある程度開示目的が抽象的になってしまうのは避けられない。 例えば、「今後の業務全般に関する検討」など、広い表現になると、秘密情報の利用目的が曖昧になる。 これにより、仮に目的外使用禁止を定めていたとしても、相手方に渡した秘密情報が、思わぬ形で使用されてしまう可能性が生じてしまう。 更に、ある情報がどのプロジェクトのために開示されたか特定しにくく、契約違反の有無を判断しづらくなる。 例えば、目的条項を「両当事者間の今後の業務全般に関する検討のため」と書くと、何でもかんでも秘密情報にできるし、何のために使っていいかが曖昧となる。 個別NDAの特徴 メリット 包括的NDAとの裏返しとなるが、まず目的を明確化できることが挙げられる。 「〇〇プロジェクトに関する検討」など、情報の利用範囲を限定しやすい。 どの情報がどの契約に基づいているか明確となることで、管理・証明が容易となる。 また、情報の重要度や秘密保持期間、返却・廃棄方法など、案件に応じて条項を変えられる。 デメリット 毎回契約作業が発生することとなるため、事務手続きが増える。 特に、スピード感が求められるビジネスでは遅れの原因になる。 プロジェクト毎にNDAを結ぶべきか、包括的NDAとすべきか より確実に秘密保持管理ができる個別NDAをおススメしたいが、場合によっては手間が増加することもある。 もし、同一の企業間で多くのプロジェクトが走る場合は、その負担はより大きいものとなるであろう。 そこで、実務上の折衷策としては、包括的NDAと個別確認方式との組み合わせが考えられる。 もっと正確に言うと、取引が頻繁に生じる企業との間で「基本契約」を締結し、その中に包括的NDAに相当する秘密保持条項を盛り込むという形である。 基本契約でベースとなる秘密保持の条件を押さえたうえで、プロジェクトごとに「個別契約書」等で目的・期間・情報範囲を特定することとなる。 基本契約で各プロジェクトに共通する決まり事や一般条項を盛り込んでおくことで、個別契約毎にそれらを記載する手間を省くことができる。 この場合、基本契約における目的条項は「当事者間で現在および将来行われる、個別に合意した取引または共同検討(以下「個別案件」という)のため」と記載すると、ある程度曖昧さを回避可能である。 とはいえ、それほど頻繁な取引を行うことが想定されなければ、個別NDAで問題ない。 過去に締結したNDAは使い回せる? 開発からの問い合わせが多いのはこのパターンである。 結論、目的や契約期間が一致しさえすれば、新たなNDAは不要である。 しかし、別のプロジェクトで設けられたNDAであればその目的も異なることが通常であり、別途NDAを締結することが必要となるのが大半である。 まとめ 包括的NDAは「スピード・手間の軽減」には有利だが、秘密情報の「利用目的」がぼやけるリスクがある 個別NDAは事務手続きが増えるものの、「利用目的・範囲の明確化」には有効 実務上は都度個別NDAを結ぶのが好ましいが、取引が多い相手との間では基本契約を締結し、その中で包括的な秘密保持条項を設けることも 特定プロジェクト向けのNDAをプロジェクト間で使い回せることもあるが、基本的には別途締結が必要

September 23, 2025 · 1 min

開発部から企業知財部への異動・転職の話

記事を見ている人の中には、現在は開発業務に携わっているものの、知財部への異動を考えている方がいるかもしれない。 筆者はまさにそのパターンで異動・転職を経験してきたので、どこまで参考になるか分からないが、当時の体験を踏まえた記事を書いてみたい。 以下、知財関係のキャリアパスに進むにあたっての検討事項を整理する。 知財業務が自分に合うのか見定める 自分のキャリアを無駄にしないよう、自分が本当に知財に興味を持って取り組めるかを見定めておきたいところである。 単に今の環境を変えたいのであれば、エンジニアとしての転職もあるだろうし、技術営業、企画等への異動も選択肢に入るはずである。 通常の知財業務としては、技術者とのコミュニケーションを通じた技術内容の理解を起点として発明発掘をしたり、他社特許調査、知財戦略立案などを行うのがメインとなる。 こういった業務は決して華々しいものではなく、黙々と特許明細書を読む時間が結構長かったりする。 開発の立場で明細書を読んだことがあれば、あの独特の言い回しの文章を大量に読むのが地味に辛いと感じるのではないだろうか(中には、休日も読書のように読みふける兵もいるらしいが)。 また、特許法をはじめとする知的財産法の知識も必要だし、チームによっては契約書のドラフトをしたり、渉外業務を行うことが求められる。 開発で得た技術知識がある程度役に立つかもしれないが、開発時代とはかなり異なる業務に携わることとなるということを理解することが重要である。 知財に進みたい気持ちが薄れるようであれば、以降の記事は読み進めなくても大丈夫である。 まずは知財部への異動を考えてみる もし今の会社自体に勤めること自体に不満が無いのであれば、知財部への異動可能性を探ってみるのが良い。 基本的に部外への異動のハードルはそれなりに高いと思われるが、それでも知財業務未経験での事業部知財への転職よりは可能性がある。 いつ異動のチャンスが訪れるか分からないので、その時に備えて準備することが重要となる。 そもそも異動のチャンスは多くない まず開発部長等の目線から考えて、果たして部下が知財部へ異動することを認めてくれるか、という観点で考えてみる。 開発部から見ると、別部署への異動であればまだしも、知財部に限らず他部門に出て行かれてしまうと大事な人足が減ってしまうため、社内異動とはいえ歓迎してくれるとは考えづらい。 このため、知財部への異動により開発部にも大きなメリットが得られる事情があったり、元の部門の人員確保に目処がつかない限りは、異動のチャンスはそう高くないと思われる。 社内公募制度があればこの限りではないが、開示される諸条件(現役職など)に合致する必要はあるだろう。 選抜されるのも下準備が必要 また、仮に異動のチャンスがあったとしても、自分がその対象者に選ばれるとは限らない。 開発業務と知財業務とは内容がかなり異なるため、会社としてもどの異動希望者が知財適性があるかどうか、熱意があるのかどうかを見極める必要がある。 同様の希望を出している社員の方が適切だと思われれば、当然そちらが選ばれる。 したがって、たとえすぐの異動が叶わなくとも、来たるときに備えて各種アピール・準備をしておく必要がある。 開発活動と並行して、例えば、以下の活動を進めておくことで、自分に白羽の矢が立ちやすい土壌を形成しておくと良いかと思う。 積極的な特許活動のリーディング 部内の発明抽出会 知財部と連携した他社特許クリアランス活動 資格の取得 知財検定 弁理士(短答通過だけでもアピールポイント) 日頃の1 on 1やキャリア面談でのアピール 開発知見を活かした知財活動による企業貢献が可能である点の説明 思いつきの希望ではなく、数年先のキャリアを見据えた上での希望である旨の説明 知財部員への相談 同期等を通じて知財部の人員状況・異動の可能性のヒアリング 特に気を付けたいのは、面談でアピールするときである。 何の下地もなしに「なる早で知財部へ行きたい」と言うと、上司にはおそらくネガティブなイメージを与えてしまう(今の職場から逃げたいだけでは?と思わせてしまう)であろう。 実際、開発部から異動したまでは良かったが、知財業務が肌に合わず、数か月後に開発部にトンボ返りしてしまうケースもあるらしく、その辺りは開発部や人事部は判断が慎重にならざるを得ない。 もちろんすぐに異動が叶えば言うことなしだが、「開発活動は疎かにしない」「開発経験を生かした知財業務を通じ、会社に貢献したい」「キャリアパスはこう考えており、今はこんな準備をしている」という伝え方をすることで、大分上司の印象は変わってくるはずである。 自分が異動を通じてどう会社に貢献できるかを説明することは、就活や転職活動にも通じるところがある。 転職による企業知財部への配属狙いは厳しい もし今の職場で異動が難しければ、転職を通じた知財部配属というのも選択肢として挙がるかもしれない。 だが、あくまで私見ではあるが、それなりに難易度は高い。 転職の場合は、第二新卒であればポテンシャル採用ということも期待されるものの、基本的には即戦力として採用されることが多い。 果たして企業側に、開発経験はあるけれども知財は未経験という人間を、敢えて中途で採用するモチベーションがあるだろうか? 特許事務所であれば、未経験であっても比較的年齢が若かったり、弁理士資格を取得していると採用してくれることもあるかと思う。 中には、「企業開発部→特許事務所→企業知財部」というキャリアパスを描く人もいるので、そういった道も無くはない。 ただ、企業によっては特許事務所経験(明細書書けます、という点など)はあまり求められていないことから、企業知財部への転職が容易とまではいえない点は注意である。 特許事務所への転職 上でも軽く触れた通り、企業知財部とは異なり、こちらは未経験であってもある程度の門戸は開かれている。 事務所で勤務する場合は弁理士資格が重要なため、既に資格を持っていたり、短答試験だけでも合格していたりすると、採用確率も高くなる。 ただし、特許事務所に勤務するということは、明細書のドラフトや中間処理書類の作成が主な業務となることは理解しなければならない。 企業知財部のようにビジネスに直接携わった提案がしたければ、その点はギャップが生じざるを得ない。 中小企業に対するコンサル業務をしている特許事務所もあるため、ある程度希望を満たせる可能性はあるが、可能性は高くない。 また、個人的な意見を承知で言うと、生成AIの技術発展に伴い、明細書作成をはじめとする書類作成業務は生成AIが代替していく流れは止まらないと思う。 したがって、単純な明細書作成という能力の価値は下がってしまい、将来が明るいとは言えない。 (もちろん、優秀な先生が様々な形で企業に付加価値を提供していく存在として生き残っていく可能性は否定しない) 特許庁への転職 特許審査官になるためには、人事院の実施する国家公務員採用総合職試験に合格する必要がある。 受験には30歳という年齢制限がある。 これは、採用年の4月1日時点での受験可能年齢上限を意味しており、受験時に30歳でも翌年の4月1日までに31歳になる場合は、国家総合職を受験できない点は注意である。 実際に受験したことが無いので難易度は不明だが、弁理士試験と同様に難易度は高いと推測する。 また、理系の社会人、ポスドクなどの人材であれば、任期付審査官として採用されるというルートも存在する。 なお、審査官として審査の事務に7年間従事した場合には、弁理士となる資格が取得できる(弁理士法第7条)。 審査官を経て特許事務所や企業知財部へ進むキャリアパスも無くはないが、審査という業務の性質上、良くも悪くも企業知財部の業務とは異なる部分が多くなるであろう。 ...

見逃しがちな登録商標およびその利用条件

普段お世話になっている製品名やサービス名の中には、他社の登録商標が含まれることがある。 ウェブサイトやアプリの説明文、仕様書、マニュアルなどで気付かず使ってしまうものがあるが、その代表的なものとして「QRコード」「Bluetooth」を取り上げたい。 これらを商用の場や公式ドキュメントで無造作に使うのは避けておきたい。 「QRコード」に関して 「QRコード」(文字商標)は株式会社デンソーウェーブの登録商標である。 商標権者の許可なしに商品名・サービス名として自由に使うと、商標権侵害になるおそれがある。 しかし、「QRコード」に関しては、次の要件を満たせばデンソーウェーブに許可を求める必要は無い。 「QRコード」を使いたい場合 デンソーウェーブは公式サイトで使用に関する案内を公開しているので、商標使用条件や注意点を守れば使用することができる。 2025年8月時点の情報にはなるが、登録商標文を掲載※(例:「QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。」)すれば、使用料の支払いやその他の手続きは不要である。 ※QRコード(名称)を利用した画面・印刷物ごとに掲載すること なお、自社の商品名やサービス名に「QRコード」を含めること(商用利用)は禁止されている。 使用の際は、今一度公式サイトを確認いただきたい。 こだわりがなければ「二次元コード」などへ 「QRコード」という名称にこだわりがなければ、別の呼び方に置き換えてしまうのが手っ取り早い。 例えば「二次元コード」とすれば、使用条件の確認も不要である。 またコード自体を掲載すること自体は、全く問題ない。 Bluetoothに関して Bluetoothの代表的な商標として、「BLUETOOTH」(文字商標)と以下の図形商標が存在する。 これらの種類のBluetooth商標は民間団体であるBluetooth SIGが所有している。 Bluetooth商標を使用したい場合 Bluetooth SIGの公式サイトによれば、Bluetooth商標を使用するには以下の2つの要件を満たす必要がある。 Bluetooth SIGのメンバーであること(政府機関、大学、個人事業主のメンバー登録は受け付けていない) Bluetooth SIG メンバー登録には、AdopterメンバーとAssociateメンバーの2種類がある Adopterメンバーは入会費・年会費無料、Associateメンバーは有償だが、公開前のBluetooth仕様を閲覧したり、Receipt Numberの取得等をより安価に行えるなどの利点あり 提供される商品が、同製品のマーケティングと販売を行う企業のメンバーアカウントのもとでBluetooth認証プロセスを完了していること これらの要件を満たすためには、ざっくり以下の表に示すような費用が発生する。 項目 備考 Bluetooth SIGメンバー年会費 Adopterメンバーなら無料 認証テスト費用 製品に使用するデザイン(Bluetooth制御部分の設計)によっては不要 Receipt Number取得費用 Associateメンバーなら購入費が割安 このように、手間や費用を踏まえると、中々気軽に自社製品にBluetooth商標を使用することはできない。 まとめ うっかり使いがちな登録商標は色々あるが、適切に使おうとすると、権利者となる企業ごとに利用を許諾する条件(手続き、費用など)は千差万別である。 よって、登録商標の有無に感度を持つことは勿論のこと、いざ使いたいとなったときの負担の程度も調査しておくことが望ましい。

一般的な著作権表示の話とOSSでの表示義務

ソフトウェアやWebサイト、文章や画像など、あらゆる著作物に「©2025 ○○」といった著作権表示が付いているのをよく目にする。 しかし実は、日本の著作権法ではこの表示が義務付けられているわけではない。 とはいえ「表示しなくても権利が守られる」ことと「表示しない方がよい」ことは別問題である。 本記事では、著作権表示が法的に義務ではない理由と、それでも表示しておくべき実務的な意味、さらにOSS(オープンソース・ソフトウェア)における表示義務のポイントを整理する。 著作権表示は義務ではない(OSSの場合を除く) 上述の通り、日本の著作権法では義務ではない。 日本が加盟する万国著作権条約では、「著作権を表記すれば守る」と規定されている。 しかし、日本はベルヌ条約にも加盟しており、この条約では「手続きせずとも、著作物の創作と同時に著作権が発生する」としている。 両方加盟している場合はベルヌ条約が優先されるので、著作権表示は必要ないというわけである。 著作権表示しておくのが無難 仮にOSSを使用しない場合であっても、著作権表示により以下のようなメリットがあるため、特別な理由が無い限りは表示しておいた方が良い。 権利帰属先が明確となる 「誰が著作権者か」を示すことで、利用者がライセンス交渉や問い合わせをしやすくなる。 また、無断利用された場合にも、権利者を主張しやすくなる。 ソフトウェアやWebサイトなど、他人が利用することを前提にする場合は特に重要となる。 無断利用の抑止 著作権表記があると、利用者に「これは著作権のあるものだ」と意識させられるため、結果的に無断利用を減らせる。 裁判での故意・過失の立証にも有利に働くこともメリットである(「知らなかった」と言いにくくなる)。 ベルヌ条約に非加盟の国で著作権が有効となる 多くの国はベルヌ条約に加盟しているが、中には万国著作権条約にしか加盟していない国もある。 著作権表示をすれば、そんな国でも著作権を発生させることができる。 権利保護期間の証拠となり得る 「©2025 Author Name」のように年を入れることで、「いつからいつまで権利が発生しているか」の証拠の一助になる。 OSSの場合は著作権表示・ライセンス表示義務あり ただし、OSSの場合は、殆どの全てのOSSライセンスにおいて、著作権表示・ライセンス表示義務が規定されている点には気を付けたい。 例えば、MITライセンスであれば以下のような著作権+ライセンス文の表示が義務づけられる。 Copyright <YEAR> <COPYRIGHT HOLDER> Permission is hereby granted, free of charge, to any person obtaining a copy of this software and associated documentation files (the “Software”), to deal in the Software without restriction, including without limitation the rights to use, copy, modify, merge, publish, distribute, sublicense, and/or sell copies of the Software, and to permit persons to whom the Software is furnished to do so, subject to the following conditions: The above copyright notice and this permission notice shall be included in all copies or substantial portions of the Software. THE SOFTWARE IS PROVIDED “AS IS”, WITHOUT WARRANTY OF ANY KIND, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO THE WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE AND NONINFRINGEMENT. IN NO EVENT SHALL THE AUTHORS OR COPYRIGHT HOLDERS BE LIABLE FOR ANY CLAIM, DAMAGES OR OTHER LIABILITY, WHETHER IN AN ACTION OF CONTRACT, TORT OR OTHERWISE, ARISING FROM, OUT OF OR IN CONNECTION WITH THE SOFTWARE OR THE USE OR OTHER DEALINGS IN THE SOFTWARE. このように、上部では著作権表示、またライセンス文の中には「著作権表示および許諾表示を記載すること」と定められている。 ...

ソフトウェア配布形式ごとのOSSライセンス表示方法

企業内でエンジニア相手にOSSライセンスの確認を行う際は、OSSの中にあるLICENSEファイルにアクセスすることが殆どかと思う。 そして、自社で開発したソフトウェアでもOSSライセンスの表示義務を果たすために、同じくLICENSEファイルの同梱をするよう促す。 しかし、最終的にはスマホアプリの形で配布する場合であったり、HW機器に組み込んだ形で提供することも念頭に置かないとならないところ、その場合は上記のような対応ではユーザーがOSSライセンスを確認できなくなってしまう。 したがって、OSSライセンスの表示方法は「どのようにOSSを配布するか」によって異なることとなる。 この点、意外と知財部員だと見逃してしまうポイントではないかと思われるので、一般的な整理を以下にまとめておきたい。 ソフトウェアのファイル自体を提供する場合(例:ZIP配布、GitHub公開など) 配布パッケージのルートに LICENSEファイルやNOTICEファイルを同梱する典型的なやり方となる。 OSSごとに、ライセンス文をまとめたライセンスファイルを同梱する。 ライセンスによって、どこまで同梱するか(全文なのか、著作権表示とライセンス条項なのか)の条件は異なる。 スマホアプリとして提供する場合(例:iOS/Androidアプリ) バイナリ形式で配布される場合は、「アプリ内での表示」が一般的である。 iOS/Androidのガイドラインでも「OSSライセンス表示」はアプリ内に設けることが推奨されている。 具体的には、アプリ内の「設定」「ヘルプ」「クレジット」等のメニューに「OSSライセンス情報」の項目を設けることとなる。 リスト化された各OSSをタップすると、OSS毎のライセンス文やが閲覧できる形である。 多数のライセンスを管理するのは大変なので、ライセンス表示のためのライブラリを用いることが多いかと思う。 なお、アプリ内にはプライバシーポリシー、利用規約といった表示を併記することが多い。 (Google Playの監査でプライバシーポリシーを指摘されることが多いらしい) SWが組み込まれた機器として提供する場合 ルーター、家電、IoT機器等に組み込まれる場合も、表示は必要である。 付属CD/USBにライセンスファイルを格納したり、機器のUI(Web管理画面やディスプレイ)に「OSSライセンス情報」ページを設けて参照可能にすることが考えられるが、中にはそういった表示が難しい機器もある。 その場合は、機器に同梱するマニュアルもしくはユーザーガイド、または製品Webページにライセンス文を記載することで表示義務を果たすこととなる。 まとめ 表にまとめると、以下の通りである。 配布形式 OSSライセンス表示方法 ファイル配布 パッケージにライセンス文を同梱 アプリ配布 アプリ内に「OSSライセンス情報」メニューを設ける 機器配布 マニュアル、付属CD、Web UI、製品Webページ等で表示

September 10, 2025 · 1 min

未成年者との契約と親の同意に関して

企業同士で契約を取り扱う上ではあまり気にしなくても良いと思うが、未成年者と契約を締結したり、利用規約・プライバシーポリシーに同意してもらう際の留意点についてまとめておく。 「親の同意が必要では?」と思うかもしれないが、実際は同意を必要としないものもそれなりに存在する。 親の同意が必要・不要なケース 主親の同意に関係しそうな契約絡みのケースは、以下の通りである。 契約書の締結 以下の民法第5条にある通り、原則として、未成年者が締結する契約は、親権者など法定代理人の同意がなければ取り消し可能である。 (未成年者の法律行為) 第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。 2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。 したがって、契約を締結する側としては、親の同意が必要となる。 例えば、以下のケースで必要となる。 携帯電話契約(端末購入・通信サービス契約) サブスクリプションサービスの有料契約(動画配信・音楽配信など) 習い事や塾の契約 クレジットカード・ローン等の金融契約 医療行為(手術や検査など、リスクを伴う場合) 一方、民法第5条3項では、以下のような例外が設けられている。 3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。 「法定代理人が目的を定めて処分を許した財産をその目的の範囲内で使う場合」とは、例えば参考書、定期券の購入のための代金のことである。 「目的を定めないで処分を許した財産で、支払いができる場合」は、いわゆる小遣いが該当する。 したがって、以下のケースであれば法定代理人の同意は不要である。 参考書や文房具の購入 小遣いからの飲食物の購入 定期券や切符の購入(通学・通勤に通常必要な場合) なお、民法第5条は強行規定なので、契約書で「法定代理人の同意は不要」と定めたとしても無効である。 この規定の適用を免れるとすると、未成年者保護の目的が果たせないためである。 利用規約への同意 利用規約は契約行為の一種に該当するため、未成年者は親の同意が必要となる。 ※利用規約の詳細に関しては、以下の記事を参照のこと。 ページが見つかりません: page/post/2025/08/30/083114/index.md 利用規約では、未成年者の利用に関する条項を明確にし、親権者の責任についても適切に定めておくことが重要となる。 プライバシーポリシーへの同意 プライバシーポリシーは個人情報の取り扱いに関する説明であって、契約そのものではない。 それでは、原則親の同意は不要であるかというと、個人情報保護委員会のFAQには、次のように記載されている。 法定代理人等から同意を得る必要がある子どもの具体的な年齢は、対象となる個人情報の項目や事業の性質等によって、個別具体的に判断されるべきですが、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもについて、法定代理人等から同意を得る必要があると考えられます。 ということで、未成年という括りではなく対象年齢に幅があるのは気持ち悪いが、ある程度年齢が低い場合は親権者の同意が必要となる。 なお、利用規約の中にプライバシーポリシーの内容を含めることも可能ではあるが、個人情報の取り扱いを慎重に行うため、利用規約とは別にプライバシーポリシーを設けるのが通常となる。 例外 ただし、サービス事業者が独自に「◯歳未満は保護者の同意が必要」とポリシーに定めたり、規約で年齢制限をかけることはあり得る。 同意書(書面)の取得は必要? 民法上は「未成年者が親権者の同意を得ている」ことが重要で、同意の形式(口頭・書面)は問われない。 つまり、親が口頭で「いいよ」と言っていても法的には有効である。 とはいえ、事業者側は、後で「同意がなかった」と言われるリスクを避けるため、エビデンスを残すことが多い。 一方、アプリ・ネットサービスの利用登録では、「保護者の同意を得ました」にチェックを入れる方式等で良しとしているケースの方が多い。 このあたりは、同意に関するリスクと、同意書取得のコストとのバランスで決めているのが現実ではないかと思う。

September 9, 2025 · 1 min