最近、商標のクリアランス業務を行い始めたのだが、自分の商標の類否判断にいまいち自信が持てず、外部弁護士の見解を伺うことが多い。

商標業務に携わる前までは、外観、称呼、観念の類否から総合的に判断する、くらいの知識しか無かったが、今後はそうも言ってられなさそうである。

実務でも独力である程度の判断ができるよう、ここで商標の審査基準などを整理しておきたい。

判断基準

商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。

なお、判断に際し、指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮し、当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的・限定的な取引の実情は考慮しないものとする。

商標の類否においては、全体観察のみならず、商標の構成部分の一部を他人の商標と比較して類否を判断する場合がある。 これも重要なので、最後のパートで述べておきたい。

外観、称呼、観念の類否の認定

外観、称呼、観念それぞれの認定方法について触れていく。

1.外観類否の認定

外観とは、商標に接する需要者が、視覚を通じて認識する外形をいう。商標の外観の類否は、商標に接する需要者に強く印象付けられる両外観を比較するとともに、需要者が、視覚を通じて認識する外観の全体的印象が、互いに紛らわしいか否かを考察する。

  • 外観について類似:「Japax」と「JapaX」 上の例ように、大文字と小文字の違い程度では、外観類似と認められる場合が多いものと思われる。

2.称呼類否の認定

商標の称呼の類否は、比較される両称呼の音質、音量及び音調並びに音節に関する判断要素のそれぞれにおいて、共通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに、両商標が称呼され、聴覚されるときに需要者に与える称呼の全体的印象が、互いに紛らわしいか否かを考察する。

(ア) 音質(母音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素
  • 同音数の称呼+相違する1音が母音共通:「ダイマックス」「ダイマックス」
  • 同数音の称呼+相違する1音が子音共通:「プロセッティ」 「プロセッティ」
  • 同数音の称呼+相違する1音が清音/濁音/半濁音の差:「ビューレックス」 「ビューレックス」
(イ) 音量(音の長短)に関する判断要素
  • 相違する音が長音の有無:「モガレマン」 「モガレマン」
  • 相違する音が促音の有無:「コレクシト」 「コレクシト」
  • 相違する音が長音と促音の差:「コロネト」 「コロネト」
  • 相違する音が長音と弱音の差:「タカラト」 「タカラト」
(ウ) 音調(音の強弱及びアクセントの位置)に関する判断要素
  • 相違する1音がともに弱音:「ダネル」 「ダネル」
  • 弱音の有無の差:「ブリテックス」 「ブリテックス」
  • 同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なる:「サイトロン」 「サイトロン」
  • 語頭において共通する音が同一の強音:「プロトン」 「クロトン」
  • 強めのアクセントの位置が共通:「SUNRICHY」 「SUNLICKY」
(エ) 音節に関する判断要素
  • 比較的長い称呼で1音だけ多い:「ビプレックス」 「ビプレックス」 
  • 一つのまとまった感じとして語が切れる: 「バーコラルジャックス」 「バーコラルデックス」
(オ) その他、称呼の全体的印象が近似すると認められる要素
  • 2音相違するが、上記に挙げる要素の組合せ:「コレクシット」 「コレ*スキット」
  • 相違する1音が拗音と直音の差: 「シャボネット」 「ボネット」
  • 相違する音の一方が外国語風の発音をするときであって、これと他方の母音又は子音が近似: 「TYREX」 「TWYLEX」
  • 相違する1音の母音又は子音が近似: 「サリージ」 「サリージ
  • 発音上、聴覚上印象の強い部分が共通:「ハヤ」 「パッヤ」
  • 前半の音に多少の差異があるが、全体的印象が近似:「ポピスタン」 「ホスピタン」

3.観念類否の認定

商標の観念の類否は、商標構成中の文字や図形等から、需要者が想起する意味又は意味合いが、互いにおおむね同一であるか否かを考察する。

-観念について類似:「でんでんむし物語」と「かたつむり物語」 | 観念について類似しない:「EARTH」と「terre」

(解説)当該指定商品に関する我が国の需要者の外国語の理解度からすれば、「EARTH」からは「地球」の観念を生じるが、フランス語「terre」(テール)からは「地球」の観念を生じないため観念は異なる。なお、商品名等にフランス語が一般に採択されている商品等の分においては、当該観念が生じる場合がある。

日本では、これらを総合的に判断するとしつつも、実務上は称呼が最も重要視されている。両商標の称呼が同一であると「類似」と判断される可能性が高く、2音以上異なると「非類似」と判断される可能性が高くなる。1音違いの場合は、上述に紹介した事例に当てはまると「類似」とされる可能性に寄ってくるものと思われる。

結合商標の類否判断

結合商標の類否に関し、分離した商標の構成部分の一部を要部と認めるか否かに関して、参考となる判例がある。

【令和5年11月30日(知財高裁 令和5年(行ケ)第10063号)】

※判決文中の強調部分はこちらで加工

⋯商標の類否は、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、

その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、

それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合、

③商標の外観等に照らし、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、その一部を略称等として認識する結果、当該構成部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすと考えられる場合

などを除き、許されないというべきである。

なお、上記③で例示する場合においては、分離された各構成部分の全てが当然に要部(分離・抽出して類否判断を行うことが許される構成部分)となるものではないことに留意が必要である。

この判例では、「遊」の文字部分と「VENTURE」の文字部分からなる引例の図形商標から「VENTURE」の文字部分を抽出して類否判断をした審決を覆している。

「遊」の文字部分が大きな面積を占めており、特徴的な書体からなり、中央上部へ配置されている点を踏まえ、「遊」の文字部分を略称等として認識し、これを要部として類否判断をすることはあっても、逆に存在感が希薄な「VENTURE」の文字部分を要部として類否判断をする行為は認められなかったこととなる。

例えば「New ◯◯」という文字商標がある場合は、「◯◯」の部分を分離して類否判断することは認められても、「New」の部分を分離して類否判断することは認められない、ということかと思われる。

なお、外国ではもう少し広い範囲で類似と認められるケースもあったりするようで、この辺りは専門家の見解を伺ったほうが良さそうである。

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