基本的に、開発委託契約の契約形態は、「請負」と「準委任」とに分かれる。
いずれも業務を外部に依頼する契約形態だが、契約の目的・成果・責任範囲などに大きな違いがある。
実務上は請負と準委任との相違を個別契約の中で修正したり、請負・準委任と明記しない契約書とすることも珍しくないが、まずは契約形態の基本として、両者の差異及び留意点について、備忘録として書き留めておきたい。
1番の違い(成果物の有無)
請負と準委任の最大の違いは、「成果物の納品義務があるかどうか」に尽きる。
請負契約では、成果物の完成と引き渡しが契約の目的になるため、納品しなければ報酬は発生しない。たとえば「Webアプリを開発して納品する」といった場合、その完成責任を負うのが請負となる。
一方、準委任契約は業務そのものの遂行が目的である。
作業の成果が形として残るかどうかは問題ではなく、作業した事実に対して報酬が発生する。
極端にいえば、アウトプットがゼロでも「やるべき業務を行っていれば」報酬は発生する。
つまり、「納品すること」が報酬の前提となるかどうか——そこが請負と準委任を分ける最大のポイントとなる。
報酬金額の提示方法
請負、準委任ともに委託契約ではあるものの、その報酬金額の提示方法は異なることが通常である。
請負の場合
基本的には総額(定額)で提示するのが望ましい。
請負契約は、「特定の成果物の完成・納品」が契約の目的であり、その成果物に対して対価が支払われる契約である。
そのため、納品された成果物に対して「いくら払うか」が明確であるべきであり、総額で定めることが原則的に妥当となる。
請負契約では、原則として発注者は進行状況にかかわらず成果物さえ完成すればよく、途中の進行や工数は関係ない。
工数や単価で記載すると、準委任のような性質になってしまい、契約形態と整合しなくなる。
ただし、契約書とは別に見積書や内訳書の中で、人月単価・工数を参考情報として提示することはある。
これにより、以下のようなメリットがある。
- 発注者が価格の妥当性を判断しやすい
- 追加開発や変更対応時の追加費用の計算基準になる
それでも、契約書本体には「総額」を記載し、単価・工数は参考情報扱いに留めるべきである。
準委任の場合
準委任は「成果物の完成」ではなく「一定期間の業務を遂行すること」が契約目的となる。したがって、報酬もその稼働に対して支払うのが自然である。
すなわち、「この業務に何時間/何日かかったか」に基づいて、報酬を決定する必要がある。
精算方法としては、実際の作業時間(実働)に基づいて精算する「実費精算型」が一般的。
これにより、月次での稼働報告・精算処理がしやすくなる。
仮に総額で記載してしまうと、稼働量が増減した場合に報酬調整ができず不便となる。
請負でも報酬を定額で出しづらい場合
請負契約型でありながら、工数の見積もりが困難で定額の報酬金額を提示しづらい場合には、例えば以下のような記載方法が考えられる。
段階的に定める
開発工程をフェーズ(要件定義・基本設計・詳細設計・実装・テストなど)に分け、各段階ごとに報酬を設定する方法である。
記載例:
「本契約に基づく報酬は以下の通りとする。
第1フェーズ(要件定義完了時):○○万円
第2フェーズ(基本設計完了時):○○万円
…
最終納品完了時:○○万円」
フェーズごとに仕様確定と見積の見直しができるようにしておくと、柔軟に対応可能となる。
準委任契約との組み合わせ
請負での最終成果物納品を前提にしつつ、要件定義や設計の初期フェーズは準委任契約(時間単価契約)として扱う方法も考えられる。
記載例:
「要件定義フェーズについては準委任契約とし、作業時間に応じた報酬を支払うものとする。
以後、要件が確定した時点で、請負契約として開発に着手し、別途定める金額を報酬とする。」
最初の段階では柔軟性が高く、要件が固まってから請負契約に移行できるのが利点。
変動型の報酬規定(上限付き実費精算型)
定額ではなく、実際の作業時間・人員に応じた報酬とするが、上限金額を設けることで発注者のリスクを軽減する方法。
記載例:
「報酬は、作業に従事した実人員数及び時間に基づき、時間単価○○円にて精算するものとし、総額○○万円を上限とする。」
見積の不確実性が高いプロジェクト初期には有効な方法。
補足
上述の通り、「請負契約」では成果物の完成が義務となるため、報酬は成果物の完成と引き換えに支払うのが原則となる。
したがって、完全な出来高精算や時間単価精算は、本来は「準委任契約」に分類される。
しかし、実務では混合型契約(準委任+請負)も多く存在する。
契約書に明確な区分とフェーズごとの条件を記載しておくとトラブルを防げるかと思う。
なお、開発委託基本契約を締結する場合も同様に
- 準委任用と請負用とに分ける
- 1つの契約書に一本化する
という方針があり、以下の記事で触れている。
今後、定期的に開発の委託を発注するとのことで、開発委託基本契約のためのドラフトを作成することとなった。 委託の形態としては、準委任型のパター...
請負と準委任の対比表
最後に、両者の主な差異を表にまとめておく。
| 項目 | 請負 | 準委任 |
|---|---|---|
| 契約目的 | 成果物の完成(例:システム、アプリの納品) | 業務の遂行(例:技術支援、保守、テスト作業) |
| 成果物の納品 | 必要 | 不要(義務ではないが、報告書等の提出はOK) |
| 報酬の発生 | 成果物の納品が完了していないと請求不可 | 業務遂行に応じて請求可能 |
| 金額の提示方法 | 総額(定額)で提示 | 「人員の単価 × 工数(月数・時間数)」で提示 |
| 責任範囲 | 完成責任あり。不具合、遅延等があると損害賠償する場合も | 善管注意義務のみ。結果責任は負わない |
| 委託元による指揮命令 | 基本不可(独立性が前提) | 基本可能(偽装請負とみなされないよう注意) |