実務を行っていると、特許出願が一発で特許査定となることは稀であり、大抵は新規性、進歩性、記載要件違反を理由にした拒絶理由が通知される。

中でも進歩性違反は代表的な拒絶理由であると思うが、複数の引例・周知技術が適用されている場合、いわゆる「容易の容易」にあたらないか?と思ったことがある。

しかし、実際にその理由で反論を試みた経験に乏しい。

拒絶理由通知への対応で役立つ事があるかもしれないので、「容易の容易」についてまとめておきたい。

容易の容易とは?

「容易の容易」という用語は審査基準には無いが、「主引用発明に、2つの副引用発明を直列的に適用すること」とされている。
※副引用発明は周知技術等であっても良い

例えば、以下のような発明・引例があるとする。

  • 本発明:A+B+C
  • 主引例:A
  • 副引例1:B
  • 副引例2:C

主引例に副引例1を適用し(A+B)、さらに別の副引例2(C)を適用する場合において、A+Bの構成からはCを適用するための課題を認識できるものの、Aのみからではその課題を認識できないのであれば、副引例2を適用することは容易ではない、という場合が当てはまる。

ここで、一例を考えてみたい。

例えば、椅子にキャスターを付けると椅子を動かしやすくなる一方、椅子に人が座ったときにキャスターが動くと危険なので、人が座る(荷重が加わる)とキャスターがロックされる椅子を発明したとする。

その発明に対し、以下のような引例が存在した場合はどうなるか。

  • 本発明:荷重が加わるとロックするキャスター付きの椅子
  • 主引例:椅子
  • 副引例1:キャスター付きの机
  • 副引例2:荷重が加わるとキャスターをロックするストッパー(高荷重時のキャスター移動による床の傷付き防止)

家具を楽に移動させるため、主引例に副引例1を組み合わせてキャスター付きの椅子を構成するのは容易であると考えられる。

しかし、主引例1にはキャスターを設けることは開示されていないのだから、キャスターを付けたときに発生する課題(高荷重時のキャスター移動による床の傷付き)を解決する手段となる副引例2の構成を適用することは容易ではない、という判断になるかと思われる。

※副引例1を主引例として考えると、副引例2とを組み合わせ、更に、机の構成を椅子に置き換えるのは容易相当、というロジックで攻められる可能性は否定できない

一方、「主引用発明に、2つの副引用発明を並列的に適用する」場合は「容易の容易」とは異なり、普通に進歩性違反となる。

例えば、以下の例である。

  • 本発明:リクライニング機能を有するキャスター付き椅子
  • 主引例:椅子
  • 副引例1:キャスター付きの机
  • 副引例2:リクライニング機能付きベッド

この場合は、椅子に対して並列的に二つの変更を加えているだけなので、「容易の容易」には当たらず、組み合わせに困難性が増すということはない。

ただし、「容易の容易」だから進歩性があるとは限らない。

自明な課題を取り上げていたり、「単なる設計変更」と言われる程度の設計的事項の変更を2段階行っただけでは、いくら特許出願人が「容易の容易」であると主張しても、進歩性が認められない。

実務で活用できそう?

いわゆる「容易の容易」であることから進歩性が認められた判例もあるが、その数は多くない。

また、上述のように「容易の容易」だからといって、必ずしも進歩性が認められるとは限らないことから、中間対応時に活用できる場面はそれほど多くないかもしれない。

とはいえ、複数の引例を組み合わせて発明に想到しようとすると、そのロジックには矛盾が生じる可能性が高くなるはずである。

ここは基本となる進歩性の審査基準に則り、技術分野の関連性、課題の共通性、機能・作用の共通性、発明に対する示唆といった動機づけの有無を確認するとともに、組み合わせに阻害要因が無いか、本発明に顕著な効果が無いかを確認することが基本となるだろう。

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