2025年4月16日の衆院内閣委員会(※)で、著作権における、生成AI画像について答弁があった。

内容が興味深かったので、そのやり取りを紹介しつつ、自分なりの考察も交えてみたい。

※少人数の委員で組織され、本会議の審議に先だって法律案などの議案の内容を専門的に検討する予備的審査機関

著作権上の生成AI画像の扱いに関する文科省の見解

「スタジオジブリのアニメに似せたAI生成画像が著作権侵害では?と言われている。どこまで適法?」

といった質問があり、文部科学省の戦略官が次のように見解を述べた。

「個別事例については最終的には司法の判断に委ねられるが、単に作風・アイデアが類似しているのみであれば、著作権侵害に当たらない。

回答内容を要約すると、以下の通り。

  • 著作権法は、思想または感情を創作的に表現したものを著作物として保護する
  • 創作的な表現に至らないものは保護対象外なので、作風やアイデアが類似しているのみでなら著作権侵害には当たらない
  • AIで生成したコンテンツに、既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば著作権侵害となり得る

考察

概ね、従来通りの見解ではないかと感じた。

作風というと、個々の描き方、技法をイメージするが、そのようなアイデアが全て著作権で保護されてしまうと、巷では著作権違反の創作物で溢れかえってしまい、皆が新たな創作活動を行うのを妨げることとなってしまうだろう。

これでは、著作権法の立法趣旨に反してしまう。

この辺りは、以下の文化庁のセミナー資料にも同様の記載がある。

出展:「令和6年度著作権セミナー AIと著作権Ⅱ」
(令和6年8月 文化庁著作権課)

一方、作風が具体的な外見や構図として「創作的な表現」になると、それは著作物(著作権の保護対象)となり得るということにもなる。

ここで気になるのが、じゃあどこまで行くと著作権侵害になるのか?という点である。

中々明確な判断が難しいところだが、判例を交えて考えてみたい。

判例(けろけろけろっぴ事件)

東京高裁の判例(平成12(ネ)4735)を挙げて考えてみたい。

以下、判決文の一部抜粋となる。

本件著作物は、カエルを擬人化した図柄である。本件著作物において、その「表現したもの」における、基本的な表現に注目すると、①顔の輪郭が横長の楕円形であること、②目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していること、③胴体が短く、これに短い手足をつけていること、を挙げることができる。

カエルを擬人化するという手法が、少なくとも我が国において広く知られた事柄であることは、鳥獣戯画などを持ち出すまでもなく、当裁判所に顕著である。そして、カエルを擬人化する場合に、作品が、顔、目玉、胴体、手足によって構成されることになるのは自明である。

擬人化されたカエルの顔の輪郭を横長の楕円形という形状にすること、その胴体を短くし、これに短い手足をつけることは、擬人化する際のものとして通常予想される範囲内のありふれた表現というべきであり、目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していることについては、我が国においてカエルの最も特徴的な部分とされていることの一つに関するものであって、これまた普通に行われる範囲内の表現であるというべきである。

そうすると、本件著作物における上記の基本的な表現自体には、著作者の思想又は感情が創作的に表れているとはいえないことになる。 

…しかし、それを現実化するに当たっての細部の表現においては、擬人化したカエルの図柄に、形状、配置、配色によるバリエーション(変形、変種)を与えることによって、表現全体として作者独自の思想又は感情が表現されているということができ、ここに創作性を認めることができる。

引用:東京高裁平成13年1月23日判決 平成12(ネ)4735

要約すると、以下の点がポイントとなる。

  • 「カエルを擬人化する」という手法自体はアイデアであり、著作物とはならない
  • 擬人化する手法のうち、ありふれた表現(顔の輪郭、短い胴体など)については、著作権で保護されない
  • 表現に独自の特徴があれば、その部分は著作権で保護され得る

参考までに、以下にいらすとやにあったカエルのキャラクターを掲載する。

確かに、こちらのイラストもカエルの顔の輪郭が横長の楕円形であり、短い胴体に胴体に短い手足が付いている。

これらの表現はありふれたものであることが伺える。

※いやすとやのカエルのキャラクターに著作権が発生していない、ということを意味するわけではない

いらすとやをディスっているわけではない

ジブリ化したAI生成画像は著作権侵害?

ジブリ化のケースで考えると、「スタジオジブリの描き方に似せたイラストを作る」という手法自体はアイデアであり、そもそも著作物とはならない。

一方、イラストをジブリ化する際に独自の表現方法があるか?を考えると、結構悩ましい。

例えば普通の人をジブリ化すると、具体的にどこが独自の特徴となるのだろうか?

淡く柔らかい色使い?
緻密な自然描写?
細かい背景とシンプルなキャラとの対比?

特徴を言語化しようとすると、何とも捉えどころがない。

いずれも独自の表現かと言われると、そこまでの特徴とまでは言い切れない気がする。

特定のキャラ(トトロなど)まで具体的だと、独自の特徴があって著作物と言えるだろうが、やはりジブリ化する行為自体は著作権侵害とは言えないのではないだろうか。

まとめ

作風を取り入れること自体が著作権侵害となる可能性は低いかと思うが、作成したコンテンツに独自の特徴が生じた場合は、それが既存の著作物と類似するときに侵害となる可能性が高くなる。

しかし、「ここが独自の表現だ!」と説明するのが難しくとも、絵柄を見るとジブリっぽさが感じられるのは結構凄いことだと思う。

そして、そんなイラストを出力できるAIは、その特徴を掴んでいるとも言え、何とも不思議な感覚になる。

ちなみに、著作権侵害が成立するには依拠性という条件も求められるが、それは以下の記事を参照いただきたい。

著作権侵害要件「依拠性」について

著作権侵害が成立するためには、単に被疑侵害品と著作物とが類似しているだけではなく、「依拠性」という要件も必要である。 この「依拠性」とは、被...

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