社内外問わず、プレゼン資料として他社名を入れることはあると思う。

このとき、テキストで企業名を表示するよりも、企業ロゴを使って掲載する方が見栄えがよく、視覚的に伝わりやすくなることが多い。

つい資料に企業ロゴを使ってしまうこともあるだろうが、果たして勝手に載せて良いものだろうか?

これらのロゴは日常生活で頻繁に目にするためあまり権利について意識されないかもしれないが、著作権や商標権の観点から改めて考えてみたい。

著作権の観点

著作権では、そもそも企業のロゴが著作物に該当するか?という点と、自社の資料に著作物を掲載する行為が著作権侵害となるか?の2点を考えてみたい。

企業のロゴは著作物に該当するか

著作権法第2条第1項第1号では、著作物は以下のように定義されている。

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

1.「思想または感情」を
著作者自身の考えや感情を表現している必要があるので、単なる事実やデータは、著作物として保護されない。

2.「創作的」に
著作者自身が独自に創作したものでなければならず、他人の作品を模倣したものや、ありふれたもの(誰が表現しても同じようなものになるもの)は創作性があるとはいえない。

3.「表現したもの」であって
アイデアなど表現されていないものは、著作権から除かれる。

4.「文芸、学術、美術、または音楽の範囲」に属する
著作物は、上記4つのいずれかの分野に属している必要があり、「工業製品」は著作物から除かれる。

さらに、第10条第1項では以下のように著作物が例示されている(あくまで例示)。

一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物 二 音楽の著作物 三 舞踊又は無言劇の著作物 四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物 五 建築の著作物 六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物 七 映画の著作物 八 写真の著作物 九 プログラムの著作物

このように図形なども著作物に含まれており、会社やサービスのロゴも例外ではない。

したがって、創作性などが認められれば、企業のロゴも著作物となる。

なお、文字のみからなるロゴマークには著作物性が認められる可能性は低いと考えられている。

自社の資料に著作物を掲載する行為が著作権侵害となるか

著作権者は上記の行為を行うことができるが、それ以外のものが著作権者の許可を得ずに同様の行為を行った場合などは、原則として著作権侵害に該当する。

プレゼン資料に著作物を勝手に掲載する行為は、原則として、著作権者の「複製権」を侵害する違法行為である。

また、プレゼン資料をweb上にアップロードして配信すれば、「公衆送信権」の侵害にも当たる可能性がある。

なお、著作権法30条1項では「私的使用のための複製」であれば、著作権者の許諾を得ることなく行うことができると定められている。

しかし、プレゼン資料で著作物を使用することは、社外向けはもちろんのこと、社内向けの資料であっても「私的使用」には当たらないと考えられる。

商標権の観点

商標権でも、企業のロゴが商標に該当するか?という点と、自社の資料に著作物を掲載する行為が商標権侵害となるか?の2点を考えてみたい。

企業のロゴが商標に該当するか

もちろん、企業のロゴは商標となり得る。

こちらは著作権とは異なり、企業等が商標登録出願をし、各種要件をクリアして初めて商標として登録されるので、商標であるかどうかは明確である。

特許庁の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)や、WIPOの商標検索サービスから、無料で検索可能である。

なお、著作物とは登録要件が異なるので、商標登録されている=著作物でもある、というわけではない。

自社の資料に登録商標を掲載する行為が商標権侵害となるか

商標権の場合は、登録商標と指定商品・役務がセットとなって権利化される。

ここで、以下3つの要件を満たすと商標権の侵害となる。

  • 使用したロゴが、登録商標と「同一」または「類似」であること
  • その使用が「同一」または「類似」の商品・役務に対してであること
  • その使用が出所表示(商標的使用)であること

今回のケースは、企業のロゴをそのまま資料に載せることを想定しているので、要件1は満たすであろう。

要件2に関しては、例えば企業ロゴの商標における指定商品・役務と、プレゼン資料で取り扱う商品・役務とが無関係であれば、侵害行為には当たらない。

一方、指定商品と、資料で紹介する商品とが同一類似の場合、例えば指定商品が「清酒」で、自社の資料が「日本酒」を宣伝するようなものであれば、要件2を満たす可能性が出てくる。

しかし、単に資料中で提携企業を紹介したり、業界における競合企業を示すために企業ロゴを表示するだけならば、要件3(商標的使用)は満たさず、商標権侵害とはならないと思われる。

登録商標を他人が無断で使用した際、商標が商品やサービスの出所を識別する目的で使用される場合に要件3が成立する。

お酒の例で言えば、自社の日本酒に関する資料であっても、単に業界図を説明するために酒造メーカーの一つとして企業ロゴを掲載するだけならば、上記の目的での使用とは異なるだろう。

資料を見たとしても、「企業ロゴの会社が作った日本酒だ」との混同が生じるおそれは皆無だからである。

もちろん、資料に企業ロゴを表示することで、自社の日本酒があたかもその企業が作った日本酒のような誤解を生むような見せ方は駄目である。

社内資料なら他社の企業ロゴを入れても良い?

社外資料ならケアすべきと分かるが、社内に留まる資料であれば、著作権、商標権は気にしなくても良いか?

答えは「No」である。

著作権法では、私的利用であれば問題ないとされているものの、それはあくまで家庭内で利用する、といったかなり狭い定義である。

企業が業務上著作物を利用する場合には、たとえ内部的に利用するだけであっても、私的利用には該当しない。

では商標はどうかというと、商標法では、以下のように商標とは「業として」生産等されている商品・役務に使用されているものである。

第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

※「業として」とは、一定目的の下で反復継続することを要件とするが、営利目的である必要はない

つまり、業として生産等していないないものに使用する場合は、そもそも商標法で規定する「商標」に該当せず、侵害もしないということになる。

一方、たとえ社内資料であっても、業として生産等されている商品・役務に使用するのであれば商標に該当し、やはり商標権侵害とならないよう気を配るべきかと思われる。

社内資料の場合、商標的使用をする可能性が低くなる分、問題にはなりにくいという点はあるとは思う。

補足

なお、不正競争防止法の観点から、「周知な商品等表示の混同惹起行為」や「著名な商品等表示の冒用行為」と認められるような使い方をしていないかが問題となることもある。

まとめ

無断で自社の資料に他社の企業ロゴを使った場合についてまとめる。

  • 使用によるリスク
    • 企業ロゴに著作物性があれば、著作権侵害が成立する
    • 企業ロゴが商標登録されており、指定商品等と同一類似かつ商品等の出所を識別するような使い方をすると、商標権侵害となる
    • 社内利用の資料でも侵害となる可能性あり
  • 対応方法
    • 企業ロゴは使わないよう企業名のテキストに変える
    • どうしても使いたければ、企業から許諾を得たり、企業の利用規約上問題ないことを確認する

あまり面白みのない結論だが、仮に侵害可能性ある資料を出してしまうと、「この企業は杜撰な管理をしている」と思われてしまうかもしれない。

企業イメージにも影響しかねないので、しっかり疑義のないよう対応しておきたいことろである。

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