この間、委託元から受託した開発を再委託することとなり、開発したものは納品物として委託元へ納めることとなった。
そして、開発行為によって生じた知財権も委託元のものとする予定である。
このとき、再委託先から
「他の開発活動にも利用できそうな汎用的な技術については、うちに知財権を帰属させてもらえませんか?」
との要望があった。
納品物の知財権は委託元なのは良いとしても、汎用技術は他の受託案件などにも転用できるように構えておきたい、というのはごもっともである。
委託元を甲、委託先を乙、再委託先を丙とすると、契約書は
- 甲乙間の開発委託契約
- 乙丙間の開発委託契約(再委託)
の2本立てとなる。
このとき、互いの契約書上の知財条項は、どのように書いておけば
- 開発に関する知財権→甲の帰属
- 汎用技術の知財権→乙帰属
とできるのか?
結論
結論としては、
- 甲乙間の開発委託契約
- 開発に関する知財権→甲の帰属
- 汎用技術の知財権→乙の帰属
- 乙丙間の開発委託契約(再委託)
- 開発に関する知財権→乙の帰属
- 汎用技術の知財権→丙の帰属
でとしておけば問題無さそうである。
また乙丙間の契約では、甲に確実に知財権を帰属させられるよう、丙に対しては、乙または乙の指定する第三者(すなわち甲)に権利を帰属させるために必要となる手続きを履行するよう義務付ける条項も設けた。
甲乙間の契約でも、甲が特許出願などするときに必要あれば乙が協力する旨の条項を設けることとしている。
考察
権利の帰属先をダイレクトに規定しようと
- 乙丙間の契約書で、開発に関する知財権→甲の帰属
- 甲乙間の契約書で、汎用技術の知財権→丙の帰属
と記載することも考えたのだが、すると1点問題が出てくる。
甲にとっては、丙って誰?丙にとっては、甲って誰?という情報が無いと、お互い「知財権の帰属先は、それでOKです」とはなかなか言えないかと思う。
これを解消するには、甲乙間の契約で丙の名前を、また乙丙間の契約で甲の名前を出す必要が生じる。
前者に関しては、再委託を甲に承認してもらうために丙の名前を出すという建付けであれば、それほど問題は無いかもしれない。
しかし、乙丙間の契約で、本来は特段言及する必要の無かった具体的な甲の名前を出すことに違和感があった。
実務上、甲と丙は互いの存在を認識することは多いだろうが、乙丙間の開発委託契約において、わざわざ丙に対して「甲が委託元です」と積極的に開示していいものか?
もし開示するなら、甲に前もって承諾してもらう必要が生じるのでは?
という余計な点まで考える必要が生じたため、上の結論のようなスキームで契約書を作成している。
留意点
契約締結時には、どこまでが汎用技術なのかを甲乙間および乙丙間で認識合わせをして置く必要がある。
実際に開発してみないと明らかにならない部分もあると思うが、とはいえあらかじめ「ネジ、ギア、ベアリングのような汎用部品に関する技術は汎用技術ってことで」と共通認識を持つことは大事である。
契約書には
- 汎用技術を定義する条項を設けるとともに、お互いに認識合わせしたような汎用技術の一例(これには限らないとしておく)を記載する
- 丙から、具体的に特定した汎用技術を乙に通知させる(乙から甲にも通知する)旨の条項を入れておく
といった手当てをしておくことが望ましい。