社内での資料作成に関して、各部署から
「他社企業のロゴを自社資料に掲載していいか?(*)」という問い合わせだけでなく
「自社製品の広告資料に、性能比較として他社の登録商標を使用すると問題か?」
と社内から問い合わせを受けることがある。

*企業ロゴ掲載については、以下の記事を参照してもらいたい
他社の企業ロゴをプレゼン資料に入れて良いか - 実務者のための知財法務Playbook

またブログを執筆している人の中には、「ある製品の批評記事を書くとき、その製品名が商標登録されていた場合は名前を記事に載せて大丈夫?」と気にされたこともあるかと思う。

確かに、名だたる企業がお金をかけて特許庁に商標登録していると、身構えてしまうかもしれない。

結論としては、基本的にそのような商標の使い方であれば侵害行為には当たらない。

商標は「出所表示」が問題となるので、機能・適合性・説明目的の使用であれば原則商標権侵害とはならない。

ただし手放しでOKというわけではなく、消費者が出所を誤認しないように配慮することが求められる。

  • [商標権侵害とならない使い方](#商標権侵害とならない使い方) * [機能・用途等の表示](#機能用途等の表示) * [比較広告](#比較広告) * [ニュース報道・評論・学術的引用](#ニュース報道評論学術的引用) * [転売行為など](#転売行為など)
    </li>
    * [よくある商標の誤表示](#よくある商標の誤表示)
    

    商標権侵害とならない使い方

    以下の通り、商標権侵害とならない使い方を挙げてみたい。

    機能・用途等の表示

    商標権は強力な独占排他的権利であるが、公益的側面の下で一定の制限を受けることになっている。

    そして、過誤登録に対する第三者の救済規定として、商標法第26条「商標権の効力が及ばない範囲」が規定されている。

    いくつか規定はあるが、その1つである商標法第26条第1項柱書および第2号は、以下のような内容となっている。

    第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。

    二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標

    なお指定役務に関しては、同様の条文が第3号に設けられている。

    具体的には、例えば以下のような使い方であれば、商標権の効力は及ばない。

    • 製品の機能・用途説明(例:「iPhone対応」「Android搭載」)
    • 互換性・適合性の表示(例:「◯◯用カバー」「△△対応バッテリー」)
    • 原材料・素材としての表示(例:「◯◯入り」)

    ただし、消費者が誤認しないよう明確な表示(純正ではない旨など)が必要となる。

    比較広告

    商標法が保護するのは「自他商品等識別機能」に基づく使用である。

    すなわち、商標が、自社の製品やサービスを、他社のものと区別して認識させる機能のことである。

    例えば、消費者がある製品に付けられた商標を見ることで「これは◯◯社の製品なんだな」と認識し、他のメーカーの製品と区別することができる。

    比較対象である商品を示す場合(例:「当社製品は、◯◯よりも10倍の成分を含みます」)は、そのような機能を発揮しているといえるだろうか?

    この場合は、宣伝内容を説明するための記述的表示であって、自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたものではないと判断される(判例*も存在する)。

    したがって、商標権の侵害とはならない。

    ただし、公正な範囲での比較としないと、商標法とは別の法律で問題となりうる点は注意が必要である。

    *黒烏龍茶類似品事件(東京地裁平成20年12月26日判決)

    ニュース報道・評論・学術的引用

    例えば、ニュース番組中で「Appleの新製品が発表されました」と紹介する場合だが、これも基本的に問題ない。

    あるメーカーの製品をそのメーカーの製品として紹介しただけなのだから、視聴者からすれば他のメーカーの製品と混同するおそれが考えられないからである。

    番組中で登録商標を読み上げたり、テロップとして紹介する行為は、商品やサービスに名称を付けて使用するわけではなく、商標として使用されたものとは認められない。

    評論中で使用する場合や、学術的引用の場合も同様である。

    ただし、自社の商品やサービスに名称を付けて使用する場合(例:番組名に用いるケース)は上記ケースには当てはまらないので、当然商標権侵害とならないように気を付ける必要がある。

    転売行為など

    一度適法に販売された正規品について、その後の転売や修理、リサイクルで商標を使用する行為(例:「中古◯◯」「◯◯正規品」と表記)は商標権の効力が及ばない。

    最初の販売の時点で商標権としての効力が発揮されているためである。

    これを商標権の消尽という。

    なお消尽の原則は知的財産権全般に認められているなので、商標権に限られるものではない。

    よくある商標の誤表示

    実務上大きな問題となるケースは稀ではあると思うが、「商標権侵害」とならない使い方であっても、正式な登録商標と異なる表示をするのはなるべく避けたほうが良いかと思う。

    とはいえ、商標権者である企業の広告ですら、誤った表示となっていることもあるのだが…。

    よくある誤表記としては、例えば以下のようなものが挙げられる。

    • ハイフン抜け(例:誤=WiFi 正=Wi-Fi)
    • 小文字化(例:誤=iphone 正=iPhone)
    • 大文字化(例:誤=YOUTUBE 正=YouTube)

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