生成AIにおいて著作権が議論となる場面としては、
- 他人の著作物を用いた生成AIの学習
- 生成AIによる、他人の著作物と似た作品の生成
が挙げられる。
後者に関しては、生成AIに限らず、生成した作品が著作物の類似性等に応じて侵害の有無が判断されるかと思う。
では、前者に関してはどうだろうか?
日本においては、学習対象となっている特定の著作物を享受する目的が無ければ、著作権法第30条の4が適用され著作権侵害とは認定されない。
なおAI学習そのものの日本での取り扱いについては、以下の記事で触れている。
AIで声をパクられたら訴えることは可能? - 実務者のための知財法務Playbook
しかし、米国ではこの点が最近の議論になっている。
日本と同様、米国でも著作権利用における例外という考え方はあり、「フェアユース」と呼ばれている。
- [フェアユースとは?](#フェアユースとは)
* [フェアユースの法的根拠](#フェアユースの法的根拠)
* [フェアユースの判断基準(4要素)](#フェアユースの判断基準4要素)
</li> <li>[フェアユースに関する判例](#フェアユースに関する判例) * [フェアユースを認めなかった判例](#フェアユースを認めなかった判例) * [フェアユースを認めた判例](#フェアユースを認めた判例) </li> * [生成AI学習への著作物の使用に関する考察](#生成AI学習への著作物の使用に関する考察)フェアユースとは?
米国における「フェアユース(Fair Use)」とは、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できる場合があるという例外的な制度で、表現の自由や文化の発展、教育・研究の促進を目的としている。
フェアユースの法的根拠
米国の著作権法(17 U.S. Code § 107)にて、以下のように規定されている。
Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright.
つまり、評論とか、報道とか、教育といった一定の目的で使用するのであれば、フェアユースに当たるので著作権侵害にならないと定めている。
フェアユースの判断基準(4要素)
ここで著作物の使用がフェアユースに該当するかどうかは、以下の4つの要素を総合的に考慮して判断される。
このうち、特に①と④は近年の米国判例では重要視されている。
項目 内容 ①利用の目的と性質 教育目的・非営利目的:〇
変容的利用(例:風刺、評論、パロディ):〇
商業目的:✕➁著作物の性質 事実を伝える作品(例:報道記事、学術論文):〇
単純な機能を果たすだけの作品(例:地図):〇
創作性の高い作品(例:小説、映画):✕③利用部分の量・重要性 利用部分少ない、著作物の核心的内容に触れていない:〇
利用部分多い、著作物の核心的内容に触れている:✕④影響 原作の市場や著作権者の利益に悪影響を与えない:〇
悪影響を与える:✕*〇:フェアユースに肯定的に働く ✕:否定的に働く
フェアユースに関する判例
多くの著作権者がAI企業を訴えているが、フェアユースを認めた判例と、認めなかった判例が見られ始めている。
フェアユースを認めなかった判例
2020年、大手情報サービス企業のトムソンロイター社(以下、ロイター社)が、ロスインテリジェンス社(以下、ロス社)を相手にAI著作権訴訟を起こした。
ロイター社は、自社が運営する判例データベース「Westlaw」のヘッドノート(判決文の要約)をロス社が許諾なくコピーし、AIを活用した競合の法律プラットフォームを開発しようとしたと主張していた。
そして2025年、デラウェア州連邦地方裁判所の判事は、ロイター社の著作権が侵害されていたと認定した。
フェアユースの4要素のうち重要な①と④で以下の通りフェアユースに否定的な判定を行い、著作物を用いたAI学習がフェアユースに該当しないと認定した。
- ロス社によるヘッドノートの利用は「商業的」性格を有する上、「Westlaw」と直接競合するツールを作成するためにヘッドノートを利用したため、変容的利用は認められない
- ロス社の製品は「Westlaw」の市場代替物となることを目的としており、ロイター社の潜在的な派生市場に悪影響を与える可能性がある
フェアユースを認めた判例
対話型生成AI「Claude」の開発企業であるAnthropicが著作権で保護された書籍をAIの学習に使ったことを理由に、複数の作家たちが著作権侵害を主張した。
これに対し、2025年に米連邦地裁は、学習した著作物を模倣するのではなく、AIが新たな作品を生み出すからこそ市場への影響は少ないと判断されてフェアユースに該当するとの判決を下した。
この場合は、フェアユースの4要素のうち④でフェアユースに肯定的な判定が行われたといえる。
更に2025年6月25日には、複数の作家が自身の作品をAI学習に使われたとメタ・プラットフォームズを訴えていたが、こちらも同様にメタが勝訴した。
裁判所は、メタのAIを訓練する目的での書籍使用をフェアユースだと判断している。
生成AI学習への著作物の使用に関する考察
今後の判例の蓄積が待たれるところではあるが、フェアユースが認められるかどうかのポイントとしては、「開発された生成AIが、学習元となった作品の著作権者の市場に悪影響を与えるか」というところかと思われる。
著作権者はもちろんのこと、AI企業も相当の危機感を持っているようであり、例えばOpenAIは「著作物による学習がフェアユースが認められないと、AI競争は終わってしまう(中国企業に負けてしまう)」といった趣旨の主張をしている。
学習には自由を認めつつも、生成AIが作った作品が既存の作品の商業的価値に与える影響によって著作権侵害となるのが判断されるべき、という方向になるのであれば、日本の著作権法第30条の4の考え方に近づいていくのではないだろうか?
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