最近、企業内でスマホアプリを開発する企画が立ち上がったので、他社の特許権をはじめとするクリアランス調査を進めていたところ、偉い方々から「知財観点でもしっかり権利を押さえておくように」とのお達しがあった。

特許権は誰しも想像できるところだと思うが、今回はスマホアプリという性質上、アプリのアイコン表示に関しても何らかのケアが必要になりそうな気配である。

となると、意匠、商標権についても権利取得を行う可能性はゼロではない。

しかし、そこは出願の目的と企業のお財布事情との兼ね合いで判断することになるであろうから、意見を求められた時に備えて自分なりに出願の判断基準は持っておきたい。

というわけで、ざっくり知財に関する考えを整理してみた。

  • [ソフトウェアに関する知財保護](#ソフトウェアに関する知財保護) * [ソフトウェア機能の保護](#ソフトウェア機能の保護) * [アプリ名の保護](#アプリ名の保護)
    </li>
    <li>[アプリアイコンの保護](#アプリアイコンの保護)
            * [商標権](#商標権)
            * [意匠権](#意匠権)
        
    </li>
    <li>[実務におけるアプリアイコンの取り扱い](#実務におけるアプリアイコンの取り扱い)
            * [他社による模倣リスク](#他社による模倣リスク)
            * [他社の権利化による侵害リスク](#他社の権利化による侵害リスク)
        
    </li>
    

    ソフトウェアに関する知財保護

    まずアプリに限らず、ソフトウェア全般で検討すべき保護内容についておさらいする。

    ソフトウェア機能の保護

    まずソフトウェアの機能や動作に関する部分を押さえるべく、特許権の取得を考えるのが王道だと思う。

    また、機能を実現するためのソースコードに関しては、著作権の保護対象となる。
    こちらは基本的に登録手続きは不要だが、証拠保全のための手続きも存在する。

    そして開発においてOSSの活用は欠かせないところ、意図せずソースコードの開示義務や特許権の許諾義務が発生しないよう、OSSライセンスについても注意する企業は多いだろう。
    事後的に「AGPLでライセンスされたOSSを使ってましたわ」と開発者から報告され、頭を抱えた知財部員も少なくないのではないだろうか?

    また、場合によってはアプリの画面デザインを意匠権で保護することもあるかもしれない。

    アプリ名の保護

    もしブランドイメージ等の観点からソフトウェア名を保護することが求められるのであれば、商標権の取得も検討対象となる。

    具体的な登録要件や、指定商品・役務については、以下の「アプリアイコンの保護」のパートで説明したい。

    アプリアイコンの保護

    スマホアプリ特有の検討項目としては、アプリアイコンの取り扱いが挙げられる。

    もしアイコンを保護するのなら、特許権等とは別に商標権、意匠権を取得する道が考えられるが、どこまで権利化にこだわるべきだろうか?

    商標権

    アイコンを商標登録するにあたっては、以下の要件を満たす必要がある。

    権利化を目指すのなら、アイコンが簡単かつありふれた図形だけであったり、国旗、他人の周知商標と似ているものでないかを確認しておく必要がある。

    • 自己と他人の商品・役務(サービス)とを区別することができないもの
    • 公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反するもの
    • 他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいもの

    また、指定商品・役務としては、以下の区分を指定するのが一般的かと思う。

    区分 商品・役務名
    第9類 電子計算機用プログラム
    第42類 電子計算機用プログラムの提供
    電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守
    第XX類 その他、自社商品・サービスに対応したもの

    ここで、第9類はアプリなどのダウンロードして利用するソフトウェア、第42類はダウンロードせずにインターネットを介して使うソフトウェア(SaaS)の提供に対応する。

    意匠権

    意匠権の場合もいくつか登録要件があるが、アプリアイコンで検討すべきは以下の点が挙げられる。

    • 新規性があること
    • 創作の非容易性があること
    • 不登録事由に該当しないこと

    商標とは異なり、出願から20年経過後に権利満了となるものの、商品やサービスの種類に限定されず権利保護できるところがメリットとなる。

    実務におけるアプリアイコンの取り扱い

    上述の通り、デザインによってはアイコンの商標権や意匠権を取得することも可能ではある。

    しかし、特許事務所への手数料も含めると登録までにそれなりの費用がかかる上、維持費用も発生する。

    企業の予算も限られる中、ブランドイメージを維持するためにどこまで費用を負担すべきだろうか?

    完全に個人的な見解ではあるが、よほど重要なアプリでない限りは意匠権の取得は不要で、また商標についても、アプリの重要度や提供先に応じて判断すればよく、アプリ毎に逐一取得するには及ばないのではないかと思う。

    理由は以下の通りである。

    他社による模倣リスク

    他社の模倣によるブランドイメージ低下を防ぐのなら、商標登録をしておけば概ねカバーできるかと思う。

    意匠権を取れば万全だが、他社の権利をざっくり調べた限り、アプリに関して両方とも取得しているケースはあまり聞いたことがない。
    ※Google mapのアイコンに関しては、両方取得しているようである。アイコンの形状などから汎用性が高く、商標権で押さえきれない様々な商品・サービスに使われる可能性を考慮しているのかもしれない。

    他社の権利化による侵害リスク

    一旦アプリを公開すれば新規性・創作非容易性の観点から他社に意匠権を取られる可能性は低くなるので、この観点から意匠権を取得する必要性は低い。

    一方商標に関しては、自社アプリ公開後であっても、アプリアイコンに周知性が認められなければ、他社が後出しで権利化する可能性は否定できない。

    商標権の性質上、登録要件に新規性は求められていないからである。

    とはいえ、ソフトウェアの機能や動作といった必須の構成とは異なり、アイコンのデザインを変更すること自体は商品・サービスの質には影響しない。

    よって、他社から警告を受けたら、アイコンのデザインを別のものに差し替えればよいと割り切ってしまうのも一案かと思う。

    それに、多少の時間はかかるが、アイコンのデザインが周知性を獲得できれば、他社による商標権の獲得も自然と妨げられるはずである。

    ただ、広く一般ユーザーにも利用されていくものであれば商標権はあるに越したことは無いし、アプリの展開先が米国をはじめとする外国にも及ぶ場合は侵害リスクも高まるはずなので、外国での権利化の可否についても企業内ステークホルダーや特許事務所と連携しながら判断していくことが必要だろう。

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