企業内で発明をするのは正社員に限った話ではなく、当然派遣社員が発明行為に関わることもある。
しかし派遣社員の場合は
- 実験補助をしている派遣社員は発明者となる?
- 発明をした場合の権利帰属はどうなる?
- 職務発明の場合、報奨金は誰が払う?
- 職務発明規定の説明義務は?
といった点で色々と気を回さないといけない点があるので、自分の知識定着も兼ねてここで整理しておきたい。
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* [派遣社員でも発明者になり得るか](#派遣社員でも発明者になり得るか)
* [派遣社員の発明は誰のものか](#派遣社員の発明は誰のものか)
* [派遣社員への職務発明規定の説明](#派遣社員への職務発明規定の説明)
* [出願書類には派遣社員も発明者名に載せよう](#出願書類には派遣社員も発明者名に載せよう)
* [請負業者の社員の発明帰属は?](#請負業者の社員の発明帰属は)
- 部下の研究者に対して一般的管理をした者、たとえば、具体的着想を示さず単に通常のテーマを与えた者又は発明の過程において単に一般的な助言・指導を与えた者(単なる管理者)
- 研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者(単なる補助者)
- 発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)
- 相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況
- 策定された当該基準の開示の状況
- 相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況
- 派遣社員もアクセス可能なイントラ上に社内の職務発明規定の資料や説明動画をアップロードする
- 派遣社員も意見を述べられるよう、問い合わせ先を設けておく
- 資料等を確認するようメール等で本人に依頼する
- 資料の確認が完了したら、そのログが残るよう設定しておく
- なかなか資料を確認してもらえない場合は、確認するよう催促する(催促履歴も取っておくとベター)
派遣社員でも発明者になり得るか
結論としては、なり得る。
学説によれば、発明者とは、当該発明の創作行為に現実に加担した者だけを指し、単なる補助者、助言者、資金の提供者あるいは単に命令を下した者は、発明者とはならないとされている。
例えば、以下の者は発明者とはならない。
派遣社員の場合は2番目に当てはまることが多いものの、そうではなくて発明の創作行為に現実に加担していれば、立派な発明者となる。
派遣社員の発明は誰のものか
特許法では、職務発明制度(特許法第35条)により、原則として「使用者」が職務発明について一定の権利を持つことになっている。
参考として、特許法第35条第3項を抜粋する。
従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。
「従業員等」とは、使用者の指揮監督の下で労務の提供を行い、その対価を受け取る地位にある者のことをいう。
派遣社員の場合だと、労働法上は派遣元の従業員だが、特許法上は派遣先の「従業員等」と解釈される可能性が高い。
派遣社員は、実質的に派遣先から研究施設を提供され、派遣先の指揮監督の下で正社員と類似の業務を行い、実質的に業務遂行への対価を払うのも派遣先であるためである。
とはいえ、「従業者等」に該当するか否かはあくまで個別の発明ごとに判断される。
このため、関係者間での発明の権利帰属で揉めないよう、実務上では派遣元と派遣先との間の契約で、派遣社員の発明は派遣先の職務発明として派遣先帰属とする旨を取り決めていることが多い。
職務発明ガイドラインにも、以下の通り推奨している。
派遣労働者については、職務発明の取扱いを明確化する観点から、派遣元企業、派遣先企業、派遣労働者といった関係当事者間で職務発明の取扱いについて契約等の取決めを定めておくことが望ましい。
派遣社員への職務発明規定の説明
特許法第35条第4項では、従業者等は、勤務規則等に従い自らの職務発明にかかる権利を使用者に帰属させた場合に「相当の利益」を受ける権利を有する旨を定めている。
つまり、派遣先の職務発明であれば、発明報奨金等(相当の利益)についても派遣先が派遣社員に支払うこととなる。
そして同条第5項によれば、勤務規則等で相当の利益について定める場合には、
の状況が適正か否かがまず検討され、それらの手続が適正であると認められる限りは、使用者等と従業者等があらかじめ定めた勤務規則等が尊重されることが原則となる。
正社員であれば、例えば新人研修等で職務発明規定の説明を受けるとともに、適宜協議の場や意見を述べる機会が与えられるかと思う。
それなら職務発明を生み出した派遣社員も同様の機会が与えられるべきだが、実際はどうだろうか?
恐らく、派遣社員が来るたびに知財部員が説明会を開くような企業はそうそう無いだろう。
そのため、実務上はもっと効率的に基準開示等を行うのが現実的である。
例えば、以下のように社内システムで対応することが考えられる。
たまに工場勤務の派遣社員でPCが支給されず、イントラへアクセスできないようなケースもあるので、その時は文書化した資料を渡すとともに、職務発明規定の説明をするミーティングを設ける、といった対応となるだろう。
なお、正社員等への周知においても、同様のシステムで対応することが考えられる。
出願書類には派遣社員も発明者名に載せよう
特許出願書類には、出願人とは別に発明者を記載する必要があるが、このとき派遣社員の名前もちゃんと入れておく必要がある。
発明者に関しては、事実の問題であり、作為的に発明者を抜いたりと変更するのは好ましくない。
また米国では、発明者を誤表示をした特許は真正発明者に訂正可能であるが、誤りが意図的だった場合は、当該特許は無効とされるリスクがある。
請負業者の社員の発明帰属は?
この場合は、委託元と委託先との間の請負契約で知財の帰属についても規定しているかと思うので、その通りの帰属となる。
仮に契約で委託先帰属となるよう規定しても、派遣社員とは異なり、委託先が使用者とはならないため、委託先の職務発明とはならず、請負業者の社員に発明報奨金等を支払う必要はない。
ただし、独占禁止法違反とならないよう、知財を召し上げることを前提とした委託費が設定されていることが前提となる。