開発から委託契約に関する相談があり、ざっくり以下のような要望を受けた。
サプライヤ(A社)に専用ソフトウェアを作ってもらい、それを当社にライセンスしてもらいつつ、使い方に関するサポートをお願いする予定とのこと。
整理すると、以下のような要望である。
- A社がSaaS提供するソフトウェアを当社向けにカスタマイズするよう、A社に開発を委託
- A社はカスタマイズが完成したら、当社にSaaS提供する
- A社は当社がソフトウェアを使う際のサポート業務も行う
- ライセンスが切れないよう、ライセンス許諾は自動更新とする
- できれば契約書は1つにまとめたい
以下のように検討したので、備忘録として残しておきたい。
契約書を一本化するか
項目1は開発委託、項目2はライセンス許諾、項目3はサービス委託と色々と内容が混在している。
契約書を一本化する際、それぞれの業務内容に応じた条項を設けられなくもないが、各業務の条件が異なると対応する条項の構成も複雑になるし、業務毎に有効期間が変わるのも好ましくない。
その結果、契約書自体が非常に見づらいものとなってしまい、せっかく1つにまとめても、寧ろ相手方のレビューや交渉に余計に時間がかかってしまうことが予測される。
結論としては、項目1は1つ目の契約(開発委託契約)、項目2と3はまとめて2つ目の契約(SaaS提供契約)としつつ、2つ目の契約には自動更新条項を設けるのが良さそうであった。
2つ目はライセンス許諾と準委任型の業務委託とが混在するものの、ソフトウェアを用いる際のサポートに関する内容であればワンセットで管理するのが通常なので、こちらは敢えて分ける必要はない。
留意点
A社がカスタマイズしたソフトウェアを使うために、引き続きライセンス許諾等をお願いすることとなる。
ここで、開発委託契約とSaaS提供契約との間の依存関係は、明示しておく必要がある。
契約解除の依存
例えば、カスタマイズが完了しなかった場合にはSaaS提供契約を解除できるよう、開発委託契約側には以下のような条項を記載することが考えられる。
第○条(SaaS提供契約への影響)
本契約に基づく業務の全部または一部が解除その他の理由により履行されない場合、当該業務の成果物を前提としている別契約(以下「SaaS提供契約」という)についても、その前提が失われたと認められる限度において、甲または乙は、SaaS提供契約の全部または一部を解除することができる。
また、SaaS提供契約側にも、例えば以下のように記載しておくと良い。
第○条(開発契約の履行状況に関する条件)
本契約は、甲乙間で別途締結された契約「開発委託契約」に基づき、乙が当該ソフトウェアのカスタマイズを完了することを前提として成立するものである。
SaaS提供開始時期
開発成果物が完成しないと、SaaS提供も開始できない。
よって、SaaS提供開始は、開発成果物の検収が完了した後に開始する旨を記載するのが望ましい。
バグ対応
カスタマイズ部分と、SaaS共通機能とで、不具合があったときの対応について整理しておく。
例えば、開発委託契約側に契約不適合の条項を設けることで、カスタマイズ部分については一定期間無償でA社に対応してもらいつつ、SaaS共通機能はSaaS提供契約でA社に保守義務を課す、という形になろうかと思う。
開発委託時の対価
通常はソフトウェアを開発してもらう場合は、請負型の契約として成果完成時に対価を支払う。
しかし、今回はSaaS提供ということで、知財権もA社帰属となることが多く、完成後も使用のためにライセンス料を支払うこととなる。
したがって、開発時の対価についてはそういった事情を鑑みて低額となるよう交渉する余地はあるかと思う。
また、場合によってはカスタマイズしたソフトウェアを第三者にも提供したい、とA社からの要望があるかもしれない。
そのような要望を飲むのであれば、更に対価やライセンス料の交渉をすることが可能となるであろう。