避難経路や建物の案内を考えるときに、誰もが一度は目にしたことのある「非常口マーク」。

施設のサインとして使いたい、あるいは説明用の資料に載せたい──そんなときにふと気になるのが、「これって著作権や商標権に引っかからないの?」という点だろう。

実際、世の中にはロゴやマークに関して権利が厳しく設定されているものも多い。

非常口ピクトグラムや、その他の安全標識については、使用前の事前許諾が必要なのだろうか?

本記事では、日本で広く使われている非常口ピクトグラムを中心に、その法的な扱いを整理してみる。

安全標識はISO/JIS規格で掲載されている

日本で広く使われている非常口ピクトグラムも含めた安全標識の多くは、国際標準(ISO 7010:2019)やJIS規格(JIS Z8210:2017)に基づいてデザインされている。

ISO規格、JIS規格のものならどんな使い方も認められるわけではないが、どういった使い方なら認められるのか、著作権、商標権の観点から掘り下げてみたい。

著作権について

著作権法第13条では、著作権が生じない著作物(非保護著作物)を、次のように定義している。

(権利の目的とならない著作物)

第十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。

一 憲法その他の法令

二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人・・・又は地方独立行政法人・・・が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの

三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの

四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

非常口ピクトグラムの取扱いは?

ここで、非常口ピクトグラムは消防庁告示「誘導灯及び誘導標識の基準」にて定められているため、非保護著作物となる(著作権は発生しない)。

その他のピクトグラムの取扱いは?

JISで規定された図記号であっても著作権の保護対象だが、特定の案内用図記号は規格作成の用途で利用することができる。

日本産業標準調査会HPの「JISの引用・転載について」のFAQにも、以下のように記載されている。

図記号を看板、標識、取扱説明書、製品、社内規格、仕様書などに用いるときに、その利用許諾は必要ですか。

A.図記号が規定されているJISの適用範囲においてその図記号を利用する場合は、利用許諾の確認の必要はございません。規格作成の用途以外の利用については、当ウェブサイトの「お問い合わせ」ページより、カテゴリー<JIS等の引用・転載>を選択し、お問い合わせください。

では規格作成以外の用途も含め、自由に使おうとするとどうかと言うと、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団が策定している「標準案内用図記号ガイドライン2021」に掲載された図記号(JISで規定された図記号の一部も含む)は、ガイドラインに従えば誰でも自由に使用することができる。

※「標準案内用図記号ガイドライン2021に掲載されている図記号一覧」は、こちら

ガイドラインでは、表示の際のルールとして、例えば以下の事項が定められている(例:非常口ピクトグラムは左右反転OK)。

  • 図形変形
  • 文字による補助表示
  • 色彩、明度の調整
  • 左右反転の可否

商標権について

案内用図記号であるピクトグラムは、一定の情報を正しく伝達するという公益的な目的があるだけであって、特定人の商品・役務の出所を表示するものではない。

よって、通常は商標登録の必要はないといえる。

他者が自分の商品やサービスに対して用いるため、特定の指定商品・役務に対してピクトグラムを商標登録している可能性も無くはないが、その場合でも公益的な目的で使う限りは「商標的使用」に該当しないため、問題ないと思われる。

例えば、特定のAEDマークについては日本救急医療財団が商標権を取得しているが、「AED設置場所を示すものとして使用する」のであれば、使用しても問題ないとアナウンスされている。

なお、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団のHPでは以下のように注意書きがされており、商標登録できないとまでは言及していないものの、商標登録は推奨していない様子である。

4.本図記号のご利用にあたって

本ガイドライン改訂版に掲載されている図記号は、誰でも自由に使用することができます。また、本ガイドラインとこれら図記号のデータは、(公財)交通エコロジー・モビリティ財団のホームページに掲載されていますのでご利用ください。ただし、これらの図記号を商標又は意匠として登録等を行うと、第三者の権利を侵害する可能性があります。ご不明な点等ございましたら下記までお問い合わせください。

注意点

デザインを独自にアレンジしてロゴ化し、そのアレンジが誰かの著作物や商標権を持つデザインに似ている場合は権利侵害の可能性がある。

また、海外では国ごとに安全表示デザインの扱いが異なるため、海外展開する場合は現地法を確認する必要がある。

ISO規格の図記号であれば、ものによっては国際標準化機構の承諾が必要となる。

非常口マークは安全のための統一規格なので、形状・色を変えてしまうと法令や規格に違反することもある。

まとめ

  • 非常口ピクトグラムに著作権は発生せず、自由に使用可能
  • その他JIS規格にあるピクトグラムについては、日本国内で規格通りに安全表示や説明用に使う場合、著作権・商標権は基本的に気にせず使用可能
  • 「標準案内用図記号ガイドライン2021」に掲載されたものは、ガイドラインに従えば誰でも自由に使用可能
  • 独自アレンジや海外利用には注意が必要

おまけ

「標準案内用図記号ガイドライン2021」において、赤、青、黄、緑が使用されている図記号の色彩は、[JIS Z 9103安全色及び安全標識(2017年度改正)]に依っている。

例えば非常口ピクトグラムは緑色だが、これにもちゃんと理由がある。

火の赤と緑が色相環でいうところの「補色」関係であり、火災が起きたときに非常口マークを目立たせるために緑になっている。

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