開発委託契約は請負型と準委任型に分類され、委託元に納めるべき成果物がある場合は請負契約とする、という点は以下の記事で紹介している。

請負と準委任との違い

基本的に、開発委託契約の契約形態は、「請負」と「準委任」とに分かれる。 いずれも業務を外部に依頼する契約形態だが、契約の目的・成果・責任範...

しかし、もし開発してもらうソフトウェアがこちらに納品されるわけではなく、SaaSという形で提供される場合だと、契約はどのように考えたら良いだろうか?

SaaS提供とは?

SaaS(Software as a Service)とは、インターネット経由でソフトウェアをサービスとして利用する仕組みのことである。

通常、普通に納品してもらえば済むソフトウェアであれば、委託元としてはわざわざ継続して費用の発生するSaaS形式で提供してもらう必要性は低いかと思う。

このため、実際は相手方のSaaS提供ソフトウェアを自社向けにカスタマイズしてもらったり、自社サービスと相手方サービスとを連携させるための開発を行ってもらう際にこのような契約を締結することが想定される。

請負型、準委任型それぞれの課題

SaaSで提供してもらうソフトウェアを作ってもらう場合、厳密には委託先から完成したソフトウェアを自社に納品してもらう訳ではないので、素直に考えると請負契約とするのは少し違和感があるかと思う。

では準委任契約はどうかと言うと、こちらは「成果物の完成」ではなく「一定期間の業務を遂行すること」が契約目的となる。

このため、たとえソフトウェアが完成しなくても委託先が開発業務を遂行していれば対価の支払い義務が生じるが、委託元としてはちょっとリスクのある契約となってしまう。

準委任契約を成果完成型とすることで、未完成時の支払義務を回避することは可能である。

しかし、受注者が負う義務はあくまで善管注意義務に留まり、成果物の完成義務は無いし、契約不適合責任も発生しない。

開発してもらうソフトウェアの品質は担保してもらいたいところ、ちょっとこの建付けでは心許ない。

このような場合、契約書はどのようにドラフティングすべきだろうか?

契約書の作成方針

結論としては、無理に請負・準委任という類型に当てはめることに固執せず、契約として必要な条項を設けておけば良い。

請負と準委任との間の相違は個別契約の中で修正できるし、請負、準委任と明記しない契約書とすることも実務上は珍しくない。

よって、例えば請負・準委任については明記しない代わりに、SaaSとしてケアすべき点として

  • 委託先によるソフトウェアの完成義務
  • 委託元によるSaaS形式での検収
  • 契約不適合(仕様通りに動かない、バグがあったときの対応義務)
  • SaaS提供の条件(ライセンス条件、保守サポート、アップデート提供など)
  • 知財権の帰属(委託先に権利が帰属し、委託元には使用権のみの場合が多い)

に関する条項を設けることが重要である。

注意点

SaaS提供となると、ソフトウェアを買い切る形ではなく、引き続き相手方からサービスを提供してもらうためにSaaS提供関連の条項を設ける必要が生じる点は気を付けたい。

あるいは、開発委託契約とは別にライセンス許諾をはじめとするSaaS利用契約を結ぶといった対応もありうる(個人的には、契約は別々にした方が良いと思う)。

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