NDA(Non-Disclosure Agreement, 秘密保持契約書)とは、新規の取引の検討や実際に取引を行うにあたり、相手方に自社の秘密情報を提供する場合に結ぶ契約で、相手に秘密情報を漏らさない義務を課すものである。

相手方と契約交渉をしている事実や、契約条件(開発内容、ライセンス条件、料金表など)は、企業秘密として保護するべきことが多い。

ところが、開発側では既に交渉を始めており、後から「交渉の結果契約が結べそうなので、NDAを結びたいのですが・・・」と相談を受けてしまうこともある。

実務上は、具体的な契約交渉をする前に、きちんとNDAを取り交わすよう意識づけを行うことが重要となる。

ここで、プロジェクト毎に相手方とNDAを結ぶのは大変なので、包括的NDAを結びたいと思う人もいるかもしれない。

例えば、過去に締結したNDAをそのまま使えれば、新たな締結は必要ないと考えるだろう。

まずはNDAの基本構造に触れつつ、包括的NDAと個別NDAのメリット・デメリットを整理したうえでおススメを紹介したい。

NDAの基本構造

主な条項の基本構造は以下の通りである。

条項 内容
目的 何のために秘密情報を開示するか(共同開発、業務委託、事業提携の検討など)。
秘密情報の定義 あまりに包括的な定義付けは紛争の火種となりかねないので、書面に「Confidential」等と明記したもの、口頭の場合は一定日数内に書面で確認するなど、何を秘密情報とみなすかを明確にする。更に、以下のような例外も設ける。
(1)開示を受けたときに既に保有していた情報
(2)開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
(3)開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報
(4)開示を受けたときに既に公知であった情報
(5)開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
秘密情報等の取扱い 秘密を適切に保管・管理する方法のほか、目的外使用の禁止、相手方の事前承諾なしによる第三者提供の禁止等を記載する。
返却・廃棄義務 契約終了時や目的達成時に、秘密情報を返却・廃棄する義務。
有効期間・秘密保持期間 契約自体の有効期間、秘密保持義務の存続期間。契約締結等に要する期間をもとに設定するのが良い。秘密保持契約終了後も、一定期間は秘密保持義務を負わせるということも可能。
その他一般条項 反社会的勢力の排除、損害賠償、裁判管轄など。

契約を締結する目的や、秘密情報の定義・範囲が明確であるかを確認するとともに、お互いの目的が達成できるかを個別に確認することとなる。

開示側であれば、「保護すべき秘密情報が対象としてすべて含まれているか」「相手方に対し、秘密情報を保護するために必要な義務を課しているか」という点、受領側であれば「契約締結の目的を達成するために必要な情報をすべて受領できるか」「秘密情報の管理体制が、自社にとって構築・運用可能なレベルになっているか」という点が確認のポイントになるかと思う。

包括的NDAの特徴

メリット

一番のメリットは、契約締結が一度で済むところである。

プロジェクトごとにNDAを作らなくても、一定期間の秘密情報授受を一括管理でき、企業間で複数プロジェクトが並行していても、基本ルールが一本化される。

また、案件がまだ具体化していない段階でも、早く情報を共有しやすいという利点もある。

デメリット

ある程度開示目的が抽象的になってしまうのは避けられない。

例えば、「今後の業務全般に関する検討」など、広い表現になると、秘密情報の利用目的が曖昧になる。

これにより、仮に目的外使用禁止を定めていたとしても、相手方に渡した秘密情報が、思わぬ形で使用されてしまう可能性が生じてしまう。

更に、ある情報がどのプロジェクトのために開示されたか特定しにくく、契約違反の有無を判断しづらくなる。

例えば、目的条項を「両当事者間の今後の業務全般に関する検討のため」と書くと、何でもかんでも秘密情報にできるし、何のために使っていいかが曖昧となる。

個別NDAの特徴

メリット

包括的NDAとの裏返しとなるが、まず目的を明確化できることが挙げられる。

「〇〇プロジェクトに関する検討」など、情報の利用範囲を限定しやすい。

どの情報がどの契約に基づいているか明確となることで、管理・証明が容易となる。

また、情報の重要度や秘密保持期間、返却・廃棄方法など、案件に応じて条項を変えられる。

デメリット

毎回契約作業が発生することとなるため、事務手続きが増える。

特に、スピード感が求められるビジネスでは遅れの原因になる。

プロジェクト毎にNDAを結ぶべきか、包括的NDAとすべきか

より確実に秘密保持管理ができる個別NDAをおススメしたいが、場合によっては手間が増加することもある。

もし、同一の企業間で多くのプロジェクトが走る場合は、その負担はより大きいものとなるであろう。

そこで、実務上の折衷策としては、包括的NDAと個別確認方式との組み合わせが考えられる。

もっと正確に言うと、取引が頻繁に生じる企業との間で「基本契約」を締結し、その中に包括的NDAに相当する秘密保持条項を盛り込むという形である。

基本契約でベースとなる秘密保持の条件を押さえたうえで、プロジェクトごとに「個別契約書」等で目的・期間・情報範囲を特定することとなる。

基本契約で各プロジェクトに共通する決まり事や一般条項を盛り込んでおくことで、個別契約毎にそれらを記載する手間を省くことができる。

この場合、基本契約における目的条項は「当事者間で現在および将来行われる、個別に合意した取引または共同検討(以下「個別案件」という)のため」と記載すると、ある程度曖昧さを回避可能である。

とはいえ、それほど頻繁な取引を行うことが想定されなければ、個別NDAで問題ない。

過去に締結したNDAは使い回せる?

開発からの問い合わせが多いのはこのパターンである。

結論、目的や契約期間が一致しさえすれば、新たなNDAは不要である。

しかし、別のプロジェクトで設けられたNDAであればその目的も異なることが通常であり、別途NDAを締結することが必要となるのが大半である。

まとめ

  • 包括的NDAは「スピード・手間の軽減」には有利だが、秘密情報の「利用目的」がぼやけるリスクがある
  • 個別NDAは事務手続きが増えるものの、「利用目的・範囲の明確化」には有効
  • 実務上は都度個別NDAを結ぶのが好ましいが、取引が多い相手との間では基本契約を締結し、その中で包括的な秘密保持条項を設けることも
  • 特定プロジェクト向けのNDAをプロジェクト間で使い回せることもあるが、基本的には別途締結が必要

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