ライセンス契約における保証条項では、次のような事項をライセンサー(権利者)が保証することがよくある。

  • 有効性保証:特許等が有効に存在することを保証
  • 非侵害保証:ライセンシーの利用が第三者の権利を侵害しない

さらっと書かれているのだが、ライセンサーから見れば、これらを100%保証するのは事実上不可能といっても過言ではない。

ライセンシーの立場であれば「しめしめ」で済む話かもしれないが、ライセンサーとしては、ある程度遵守できる範囲の内容にするための交渉が求められる。

保証する側(ライセンサー)の主なリスク

各保証の項目について、もう少し詳しく述べておきたい。

無効・取消しのリスク

特許権等に無効理由があることが確定すると、特許権等ははじめから無かったものとみなされる(特許法第125条、商標法第46条の2)。

無効理由の有無はライセンサーではなく特許庁や裁判所が判断する上、権利化後に新たに見つかった資料によって無効となる可能性もあるため、権利の有効性はライセンサーにも完全にはコントロールできない。

仮にライセンサーが「有効であることを保証」してしまうと、特許や商標が後に無効審判で無効となった場合、契約違反・債務不履行を問われる可能性がある。

このため、ライセンサーとしては「保証しない」と規定したいところである。

とはいえ、ある程度の譲歩が求められることもあると思うが、その際は、例えば「ライセンサーの知る限り、契約締結日において、無効審判の請求、その他特許の有効性を争う法的手続がなされたことがないことを保証する」といった条件を設けることが考えられる。

このような規定であれば、ライセンサーもより確信を持って保証することができる。

その他、「契約締結時においてライセンサーの知る限り無効理由はないことを保証する」という書き方もあるが、個人的には上述のように「法的手続きがなされたことがない」という書きっぷりにした方が、より疑義のない内容になると思う。

とはいえ、実務上インパクトのある差ではないと思う。

第三者権利侵害のリスク

たとえ特許権が登録となっていても、ライセンシーの実施行為が第三者の特許権等を侵害する場合がある。

例えば、特許が第三者の特許権に対して下位概念や利用関係にあって、当該特許の実施が当該第三者の特許権を侵害する場合が挙げられる。

この場合、ライセンサーが非侵害を保証したにもかかわらず、実際には第三者の特許・著作権・商標を侵害していたということであれば、損害賠償責任を負う可能性がある。

特にソフトウェアや複合技術の場合、全ての構成要素について侵害の有無を完全に確認することは困難である。

また、パテントトロールからの攻撃を受けるというリスクも存在する。

もちろん、特許権の実施行為以外の部分が原因で訴えられることもあるが、ライセンサーとしては無用なリスクは回避したいところである。

そもそもライセンサーの立場としては、ライセンス行為はあくまで「おたくに権利行使しませんよ」という地位を与えているに過ぎず、第三者の権利の非侵害を保証するのは過度な負担であると考えられるので、ライセンサーとしては「保証しない」と規定したくなる。

それでも交渉により何らかの保証をせざるを得ない場合には、「契約締結時に知り得る限り第三者の権利を侵害していないことを保証する」と規定することが考えられる。

または、「これまで権利侵害の通知を受けたことがないことを保証する」という記載もあり得るが、必ずしもライセンサー自身が特許権等を実施しているとは限らないため、ライセンシーからはもっと確実な保証を要求される可能性はある。

より相手方に歩み寄る案としては、「第三者からの請求があった場合に、協議の上、合理的な範囲で協力する」ことを義務付けることが考えられるが、この辺りになると現実的に何らかの対応を迫られることも視野に入れておくべきかと思う。

ライセンサー視点の実務対応

以下に保証の条項案のまとめておく。

このほか、損害賠償義務が発生することが想定される場合は、上限額を設けたり、免責条項で「間接損害・逸失利益については賠償しない」等と規定することが考えられる。

保証内容 最善策 譲歩案
有効性保証 保証しない ・契約締結時において無効審判の請求等がないことを保証する
・契約締結時において知る限り無効理由はないことを保証する
非侵害保証 保証しない ・契約締結時において知る限り非侵害を保証する
・これまで権利侵害の通知を受けたことがないことを保証する
・第三者から請求があった場合、協議の上合理的な範囲で協力する

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