製品や技術をを外国企業に輸出する際には、輸出規制・倫理的制約・リスク管理などの観点から、販売国・地域、使用者(企業・組織)を限定・禁止することが一般的である。

特に、ソフトウェアはクラウドを介して世界に販売・ライセンスすることが比較的容易なので、あらかじめ販売先の限定を検討しておくことが重要である。

知財業務の観点からは離れるかもしれないが、ソフトウェア販売において頭の片隅に入れておいたほうが良いと思うので、販売国・地域、使用者の観点で整理してみたい。

国(使用地域)の限定

日本の輸出規制は、大きく2つの規制「リスト規制」「キャッチオール規制」がある。

規制 概要
リスト規制 輸出される技術の機能・性能が武器や軍事転用が可能かどうかに着目
キャッチオール規制 輸出される技術の使用者や使用目的が軍事転用などの懸念があるかどうかに着目した規制

確認フロー

技術を輸出する場合、まずその技術がリスト規制に該当するかどうかを確認し、該当する場合は、例外規定を除き経済産業省の輸出許可が必要となる。

リスト規制に該当しなかった場合は、次にキャッチオール規制の確認を行い、キャッチオール規制に該当すれば、やはり経済産業省の輸出許可が必要となる。

リスト規制

輸出される技術が「輸出貿易管理令」の別表第一または「外国為替及び外国貿易法」の別表の1~15の項に該当する場合であってⅠ物等省令で定める仕様に該当するものは、事前に経済産業大臣の許可が必要となる。

対象品目または役務(技術)の内容は、以下の通り。

  • 武器関連(輸出貿易管理令 別表第一1の項)
  • 核兵器、化学・生物兵器およびミサイル(輸出貿易管理令 別表第一2~4の項)
  • 通常兵器関連汎用品(輸出貿易令別表 第一5~15の項)

ただし、貿易外省令第9条において、許可を必要としない技術提供が規定されている。

例外規定に当たる場合は、提供する技術がたとえリスト規制技術であっても、許可を取得する必要はない。

例えば、以下のようなものは許可を取得しなくても良い。

  • 公知の技術を提供する取引又は技術を公知とするために当該技術を提供する取引(第9条第2項第1号)
  • 工業所有権の出願・登録を行うために必要な最小限の技術を提供する取引(同項第11号)

ソフトウェアの場合、OSSであれば問題ないが、OSSの一部を改変しかつ改変後のソースコードを公開せずに、改変後OSSを組み込んで提供する場合は、例外規定には当たらない。

キャッチオール規制

輸出される技術が、大量破壊兵器等の開発、製造、使用または貯蔵、もしくは通常兵器の開発、製造または使用に用いられるおそれがあることを輸出者が知った場合、または経済産業大臣から許可申請をすべき旨の通知を受けた場合には、輸出または提供にあたって経済産業大臣の許可が必要となる。

このキャッチオール規制では、木材・食料品を除くほぼすべての品目が規制の対象となっており、以下に細分化される。

この「キャッチオール規制」に該当するか否かの判定要件は、経済産業省から許可を受けるべき旨の通知を受けた場合に許可を要する「インフォーム要件」と、輸出者自身で技術の用途や需要者の確認を要するかを確認する「客観要件」との2要件から構成されている。

客観要件は、次の2つの要件に分かれている。

  • 用途要件:輸入者等において、大量破壊兵器等の開発等に用いられるかどうか。
  • 需要者要件:輸入者等が、大量破壊兵器等の開発等を行っているかどうか。または、特定の(外国ユーザー)として指定されているか否か等。

また、キャッチオール規制は更に以下の小項目に分かれている。

大量破壊兵器キャッチオール規制

用途要件または需要者要件のいずれかに該当し、大量破壊兵器等の開発等に用いられる恐れがある場合には、経済産業大臣の輸出許可が必要となる。

対象は、後述のグループA以外の国・地域となる。

通常兵器キャッチオール規制

用途要件に該当し、通常兵器の開発等に用いられる恐れがある場合には、経済産業大臣の輸出許可が必要となる。

対象は、国連武器禁輸国・地域となる。

優遇を受けられる国(グループA)

リスト規制の対象ではあるが、キャッチオール規制は対象外という優遇を受けられる国々があり、これらはグループA(旧ホワイト国)と呼ばれる。

グループAは大量破壊兵器などの拡散を防ぐための輸出管理が厳格に行われている国々とされているため、キャッチオール規制の確認は不要となる。

グループAの具体的な国々は「輸出貿易管理令」の別表第三で定められており、2025年時点では以下の国々となる。

アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国

企業・組織(使用者)の限定・禁止例

その他、以下のような特定企業等には輸出しないという社内ルールを設けることも考えられる。

  • 制裁リスト掲載企業
    • 米国OFACリスト(SDNリスト)
    • EU制裁リスト
    • 経産省の外国ユーザーリスト
  • 競合他社
  • その他、社内事情で指定する企業等

輸出国・企業の限定条件の一例

例えば、リスト規制の対象とはならない通常のソフトウェアであれば、以下の取り決めとすることが考えられる。

  • グループA:特定企業でなければOK
  • 国連武器禁輸国:NG
  • 上記以外の国:個別判断

関連記事